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深く静かな森の料理店で大好きな料理を / #シロクマ文芸部 #静かな森でひとりさん

爽やかな秋空のもと、私はハイキングに出かけた。
空はどこまでも青く、白い雲はわたあめのようにふわふわとおいしそうに浮かんでいる。空気がおいしい。足取りも軽い。ほんとうに来てよかった。

どれくらい歩いただろうか。私の目の前には森がある。深く、深く静かな森の中、私はひとり立ちつくす。木々は風にそよぎ、鳥はさえずる。木漏れ日は優しく、私にふりそそぐ。日々の出来事でいつの間にか尖っていた心が洗われて丸くなる。

どれくらいそうしていただろう。ぐぅとベルトあたりで音が鳴った。空腹の合図だ。そろそろ帰ろうか。いや、だが、そうも行かない。帰り道がわからないのだ。迷ったとも言える。

やみくもに歩くとさらに迷うかもしれないが、とにかく腹が騒ぐので早く帰りたいと適当に進んでしまう。まあ、そのうちに元の道に戻るに違いないと心を楽にして進むと目の前に看板が見えた。

『深く、深く静かな森の料理店』

これはラッキーだ。こんなところにレストランがあるなんて。いや、待てよ。これは、あれだ。宮沢賢治の『注文の多い料理店』に違いない。何か注文をつけられたら逃げ出そう。いや、入らずにUターンだ。

次の瞬間、私は料理店のドアを開けて中に入っていた。私の食欲が理性や恐怖をぶちのめしたようだ。何か注文されるかと思いきや、店主は「いらっしゃい。何にしましょう」と微笑んでいる。

私の他に誰も客はいない。メニューを見ると、『ラーメン』『カレーライス』『カツ丼』しか書かれていない。これでは『注文の多い料理店』ではなく、『注文できるメニューの少ない料理店』だ。

店主が愛想よく「何、しましょう」ともう一度声をかけてきた。道に迷って空腹を覚えているにもかかわらず、たった3品のどれにするかに迷ってしまう。

だって、正直どれも好きなんですから。

このあと、私は『ラーメン』『カレーライス』『カツ丼』すべてを頼んで、腹の虫を静かにさせた。ここまで結構な距離を歩いてきた疲れと、おそろしく満腹になった心地よさで、私は不覚にも料理店の席で、深く、深く静かな眠りについてしまった。

目が覚めると自宅のベッドだったらいいな。

(おしまい)
(883字)

道に迷って森の料理店でおいしい料理を食べた話です

はれるや( ´ ▽ ` )ノ。です。
どうやら、コラボしなくてはいられない病にかかってしまったようです。

#シロクマ文芸部 お遊び企画
お題: #爽やかな

小牧幸助さん。
爽やかなショートショートにしました。秋らしい雰囲気に仕上げました (゚O゚)\(- -; ドコガジャ。
よろしくお願いします。

#静かな森でひとりさん
お題?: #深く深く静かな #正直どれも好きなんです

静かな森でひとり(静森あこ)さん。
2つの下書きタイトルをコラボさせちゃいました。しかも「静かな」と来たら「森でひとり」とつなげちゃって……。ひねりはないが、インパクトもないショートショートです。
笑って許してください。

いつきさん、ありがとうございます

いつきさんの #賑やかし帯 にはいつもお世話になっています。保管庫はこちらです。


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