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観光望遠鏡

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屋上からの短い眺め
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2016年1月の記事一覧

これはみんなほんとうのおはなし

 森を抜けるために、たくさんの嘘を吐いた。わたしはとても上手に嘘を吐いた。本当のことはなにひとつ持ち出すことはできなかった。どのみちわたしは本当のことなんてなにひとつ話さない。
 わたしたちはふたり、連れ立って歩いた。前を行く彼の背中を見ながら、ときどき誰かが口ずさむ歌のほかは、ふたりともなにも言わなかった。落っこちていく歌だった。転げまわる歌、ねこじゃらしとアザミの歌だった。
 森は暗く鬱蒼とし

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 ぬくぬくと日の出た午後だった。面白くもないテレビを聞き流しながら、狭い座敷に寝転がって外を見ていた。網戸のすぐ向こうを踏み固められただけの田舎道が横切り、そのさらに奥には実ったものが皆刈り取られた後の、広々した畑だけが広がっていた。
 これは夢だなと思いながら横になっていた。枕にした薄い座布団も黒々と艶のある古い卓袱台も、小さな本箱に並ぶ背表紙たちも、横になったまますべて同時に視界に収まり、それ

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