これはみんなほんとうのおはなし

 森を抜けるために、たくさんの嘘を吐いた。わたしはとても上手に嘘を吐いた。本当のことはなにひとつ持ち出すことはできなかった。どのみちわたしは本当のことなんてなにひとつ話さない。
 わたしたちはふたり、連れ立って歩いた。前を行く彼の背中を見ながら、ときどき誰かが口ずさむ歌のほかは、ふたりともなにも言わなかった。落っこちていく歌だった。転げまわる歌、ねこじゃらしとアザミの歌だった。
 森は暗く鬱蒼として、湿った気配に満ち満ちていた。
 薄い色に光る草むらには、誰かの踏んだあとが一筋残っていた。わたしたちはその上を踏んで歩いた。すでに平たく潰されたはずの草の実が、思い出すようにまたぷちんと潰れて香った。
 自重に耐え切れず崩れ落ちた古木の、深い裂け目から地下に降りて進んだ。彼女は最後の小さな段差に躓いて、慌ててつかんだわたしの上着の裾を破いた。
 くり抜かれた通路の、天井はとてもとても低かった。くまなく張り巡らされた木の根が、狭く細い一本道を守っていた。点々と明かりが足元で揺れていた。近付いてみると小さないきものの骨が燃えているのだった。
 燃える骨をひとつかみ、ポケットに入れようとするわたしを彼は黙って見ていた。骨は布の上を滑ると瞬く間にまとまりを失って、細かな砂に変わってしまった。彼女はしばらくその場に立って、骨と小さないきもののために泣いた。
 扉はそれぞれ違う色に塗り分けられていた。
 鍵を持って来たかと門番は尋ねた。わたしたちはふたりとも、リボンに通した鍵の束を持っていた。
 扉はみんな開けることができた。どれでも好きなのを通って出て行けと言われたので、わたしたちはばらばらに出て行った。わたしの右の心臓は彼女の左の心臓の影になって出て行った。わたしは彼の背中を見送ってから扉をくぐっていなくなった。
 わたしは森にいて、森を抜けるためにたくさんの嘘を吐いた。本当のことはひとつも言わなかった。

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