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観光望遠鏡

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屋上からの短い眺め
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2015年8月の記事一覧

姉妹

 さがしものが得意ね、とよく言われた。
 子どもの頃、姉は不意にいなくなることがあった。借りてきた映画を家族で観ているとき、訪ねてきた祖母の昔の話を聞いているとき、姉の誕生日に、集まった友人たちを置いて姿を消してしまったことさえあった。
 姉を探しに行くのはいつもわたしだった。
 家の中や庭の木かげ、公園の東屋にいたこともあった。わたしが簡単に姉を見つけるように、姉は簡単にひと気のない場所を見つけ

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ガラス瓶

広口のガラス瓶を持って彼は歩き回った。
友人のいなくなった家の物置を片付けていて見つけた。
ガラス瓶はほとんどそこに存在していないように透明で、そうやって始終手にしていなければ、置いた途端になくしてしまいそうだった。きっと前の持ち主もそれで置いていったのだろう。

歩き回っていると時々、彼のと同じくらい透明なガラスを見掛けることがあった。
ずっと前から忘れられていたのだろうそれらは小さな球の形

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件の娘

 山道を抜けると、さっきまでがうそのように晴れていた。
 土砂降りの雨音が取り除かれて、四人乗った車内はいっそう静かだった。窓ガラスの、次々後ろへ流れていく水滴を眺めてついたため息が思ったよりも大きく響いて、助手席から母が振り返った。母は驚いたようにわたしの顔を見つめ、起きていたの、と尋ねると返事も待たず早口に、もうすぐ着くからね、と続けた。
 ゆうべもよく眠れなかったのに、二時間ほどの道のりで少

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寓話

あるところにひとりの子どもと、背の高いひとと太ったひと、それからとても小柄なひとがいた。
太ったひとは楽しい話をたくさん知っていて、いくつもいくつも子どもに話して聞かせた。
小柄なひとはほんのひとつふたつの言葉しか話すことができなかったので、笑い転げる子どもの隣にただ座り、黙って一緒に話を聞いた。
背の高いひとはいつでも真っ赤な顔をしていて、ありとあらゆるこわい話を次々話すことができた。
彼の声は

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