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中国「女性スマホ専業メーカー」の歴史◆Vol.171

中国には数多くのスマートフォンメーカーがありました。今は大手に集約されていますが、一時は200社だったか、恐ろしい数の中小メーカーも存在していたのです。長年中国市場を見ている自分にとって、その中でも女性向け端末に特化したメーカーには思い入れがあります。

その1つ、Sugarが、やはり女性向けスマートフォンであったMeituそっくりな六角形デザインの「K50 Pro」を2021年4月に発表。歴史は繰り返すのかという思いもあって、女性向けスマートフォン専業メーカーの歴史をTwitterに投稿しようと思ったら、結構長くなってしまったので断念。

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メディア向けの記事にしようにもこんな内容を読んでくれる読者もいないでしょうから、noteにまとめることにしました。自分は「携帯電話研究家」ですし、たまにはこんなネタもいいでしょう。なおマニアックな内容なので今回は途中から有料です

女性向けと謳わなくとも、メインターゲットを女性にしたスマートフォンはこれまでもいろいろ出てきています。しかし女性向けスマートフォンのみを出していた専業メーカー(ブランド名)はこの3社でしょう。
・Doov
・Meitu
・Sugar
本体デザインを特化させていただけではなく、セルフィー機能を強化していたことも特徴です。そのセルフィー機能に関してはカシオのセルフィーデジカメ「TR」シリーズが中国で爆発的な人気となり、SNSに美顔の自撮りをアップすることが大ブームになりました。2010年代の中国では「iPhone+TR」がイケてる女性の必須アイテムだったほど。カシオTRがあったからこそセルフィーブームが誕生し、女性向け専業スマートフォンメーカーも勢いがあったのです。

ちなみにカシオTRは2011年に初代TR100が登場、しかし全く売れず、その後中国や香港で自撮りがすごいことに女性モデルたちが気付き使い始めるとあっという間に人気に。このあたりは日本でも記事になっているかと。

2機種目のTR150(2012年2月)から、女性向けを意識したカラバリも登場しました。その後次々と新製品を出していきましたが、日本は自撮り文化がスマートフォンではなくプリクラだったため、そのカシオの躍進は全く知られぬ状況でした。TRシリーズはカメラ性能だけではなく本体の高級化も進み、中国では日本円で10万円近いモデルも出ましたがそれでも売れるという状況が続いたのです。

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ということで女性向けスマートフォン専業メーカーの歴史を振り返ります(メーカー名はざっくりブランド名で)。中国市場の動きを、以下、7つの年代に分けてみました。

【黎明期:2010年以前】 
【2011年:スマホ美顔時代到来】
【2013年:女性スマホ時代到来】
(以下有料公開)
【2014年 - 2015年:セルフィーブーム本格化】
【2016年 - 2017年:Meitu天下時代到来、忍び寄るOVG】
【2018年:女性スマホ専業メーカーの終焉】
【2019年以降:話題が時たま出る、細々とした状況】

それではMeituが生まれた2008年からの歴史をはじめます。なお各社のすべての製品を羅列しているのではなく、トピックとなる製品のみを記載しています。

【黎明期:2010年以前】

2008年10月 Meitu(美图 / 美図)誕生
2009年3月 Doov(朵唯)誕生
2009年6月 Doov初の携帯電話「S500」「S600」「S800」発売。イメージキャラクターは舒淇(スー・チー)。

Meituはアプリメーカーとして誕生しましたが、当初は際立ったアプリは出していなかったようです。一方Doovは女性向けのかわいいデザインの携帯電話を投入。中国で携帯電話が爆発的に売れ出したので、価格競争ではなく女性にターゲットを絞ってビジネスを始めたのでした。このころの中国携帯電話は安物っぽいデザインが多く、Doovの携帯電話は人気となります。スー・チーという大物女優を使ったのも当たりました。

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【2011年:スマホ美顔時代到来】

2011年2月 Meitu、美顔アプリ「美图秀秀」投入
2011年11月 Doov「iEva D5」「iEva D700」「iEva D720」発売。女性向けスマホ投入

Meituの美图秀秀の登場でスマートフォンを使ったセルフィーに革命が起きます。そもそもMeituはCEOがカメラマニアで美顔アプリを開発しようというところから会社がスタートしています。iPhoneを含むあらゆるスマートフォンで美图秀秀は人気になり、その後海外ではBeautyPlusとして登場、iPhoneアプリでも世界トップ10に入るほどの人気になっていきます。

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また時代はAndroidスマートフォンが勢いを増してきたころ。Doovもスマートフォンを女性路線としてiEvaシリーズを投入して人気となります。iEva D700 / D720はドロイド君がピンク色の女の子で「女子スマホ」をアピールしました。

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【2013年:女性スマホ時代到来】

2013年5月 Metu初の製品「Meitu Kiss(Meitu1)」発売。DSPに富士通Milbeaut搭載
2013年5月 Doov「iSuperS1」発売。iEva後継シリーズ
2013年 Sugar誕生
2013年 7月初製品「Sugar」発売。側面にスワロフスキークリスタル129個(5.16カラット)、フロント800万画素カメラ

Meituもソフトウェアから自社端末も展開する戦略へ変更。ちょうどシャオミがスマートフォン市場に参入し、その後Redmiを出すことで低価格・高性能な製品の製造が容易になった時代でした。Meituも同様に自社でハードを設計し、そこに美图秀秀をプリインストールしたわけです。画像処理にMilbeautを搭載したのもそれだけの処理が必要だったからです。

Doovはライバル誕生に対抗してiSuperシリーズを投入。女性向けデザイン+セルフィー機能で絶頂期を迎えます。

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一方スワロフスキークリスタルを張り付けた高級女性向けスマートフォンとしてSugarも誕生。フロントカメラ画質も高く、セルフィー強化もしっかりしています。2013年は本格的な女性スマホ競争が始まった年といえます。

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なおこの年、ITmediaに女性スマートフォンの記事としてDoovのことを書きました。まだMeituやSugarはあまり目立っていませんでしたが、女性向けスマートフォンが盛り上がっていたからこそこんな記事を書いたのでした。

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