伊藤和夫「私の英語教授法」より

「申し上げたいことの第一は「速く読む」ということについてであります。試験問題の分量、特に一題あたりの英文の分量が著しく長くなってきているのはここ十年くらいの傾向ですが、それを反映して、「英語の文章を全部読む前に試験の時間が終わってしまう。英文を速く読めるようになるにはどうしたらいいか」というのが、「単語を覚えるにはどうしたらよいか」という問いと並んで、学生から受けることの最も多い質問であります。この問題での私の基本姿勢は、時間をかけてゆっくり読めば理解できる文章を速く読む訓練をすることは可能だが、時間をかけてゆっくり読んでも理解できない文章の意味が、速く読むとわかるということはあり得ない、ということに尽きるかと思います。「英語を読むことによってのみ英語は読めるようになるのだから、速く読む訓練が大切だ。ゆっくり時間をかければ八割から九割まではわかるテキストを使って、一ページ五分とか十分とか時間を決めて、とにかく時間内に全部を読み終わる練習をしなさい。その場合に大切なのはいちいち日本語に訳さないことだ。英語を読むことと英語を日本語に訳すことは別の次元の問題であり、英語がまず読めているから必要な場合には訳せるのであって、訳せたから結果として読めているのではない。しかも、英文を訳すのではなく読んでいる時は、我々の目は常に英文の流れに沿って、左から右へ、上から下へ動くのが理想なのだ。どんなに複雑な英文でも、一番はじめの大文字から読みはじめて、読むに従ってわかり、文末のピリオドに到達した時には一度読んだだけですべてが終わっているような読み方が正しい読み方である。それには読みはじめた時から、文の構造についてのある予想を立て、文が形の上で自分の予想通りに進行してゆくか、予想を裏切った展開になるかを確認してゆく作業が大切で、それを意識的にやることが私が教えていることだし、訓練でそのやり方に慣れ、それが無意識にできるようになるにつれて速く読めるのだ」。速く読む読み方を教えてくれという学生のうちで、すでに力のある生徒には、このような話をしています。」

伊藤和夫『予備校の英語』研究社、1997年、182〜183ページ。

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