エリック・A・ハヴロック『プラトン序説』より

「口誦詩は、集団的アイデンティティの保存をその究極目標とするような、文化的教育の道具であった。口誦詩がこの役割のために選ばれたのは、書かれた記録がないところでは、口誦詩の韻律と定型表現が想起と再利用のただ一つの装置を提供したからである。プラトンが関心を示さなかった技術にかんするこの事実は、ヘシオドスの寓話のうちに直感的に読み取れる。彼の讃歌も、神々へのすべての讃歌と同じく、神の誕生をほめたたえねばならない。神の誕生そのものが神々の血統を名指す装置なのである。特定の神の血統を通じて、オリュンポス山の機構に属する他の神々にたいするその神の関係が象徴的に表現されうるのである。こうしてヘシオドスは、詩神たちに讃歌をささげるさいに、彼女らの誕生をほめたたえ、彼女らをムネモシュネの娘として認定する。すでに述べたように、このムネモシュネというギリシア語は、単なる記憶以上のものを意味する。それは想起と記録と暗記といった観念を含み、暗示している。ヘシオドスはこの寓意的な血統を通して、詩の存在の技術的な根拠を見定める。つまり、その寓意的な血統は詩神たちの機能を述べるものなのである。詩神たちは霊感や創作の娘ではなく、基本的に記憶の娘である。」

エリック・A・ハヴロック『プラトン序説』村岡晋一訳、新書館、1997年、121-122ページ。


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