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地中海北縁記第5章~また旅猫GRISに恋して その1~

【地中海北縁記第5章~また旅猫GRISに恋して】
 我が家には18年連れ添った<GRIS>というメス猫がいた。1999年、家のカミサマが赴任先のマレーシアのペナン島のゴルフ場で拾い、持ち帰った。お転婆なGRISはすくすくと育ったが、この上もなく臆病でもあった。だが日本とペナンを2度往復し、さらに家のカミサマのダカール赴任に伴って、パリ経由で日本を2度も往復した。その後東京で数年落ち着いた生活をしていた。2013年、猫には思いもよらぬ寒いサラエボ行きとなったが、それでも日本を2度往復、まさに「また旅猫」である。そして2016年8月末、我々はGRISと共に南仏の地マルセイユに降り立ち、残り少ない猫人生を共に過ごし、見守った。
2017年5月のある日 香高堂記す。

その1《GRIS のつぶやき》
 私は<また旅猫GRIS>と申します。あらあら、FACEBOOK でお馴染みの方もいるわね、いやねえ、化け猫じゃないわよ。実はね、昨年の11月25日に18年の華麗な(恥ずかしい・・・)猫人生を終えたのだけど、プロヴァンス日本人会の会報でご主人たちの紹介をして下さいとのことだったので、ちょっとだけ「彼方」から舞い戻ってきたのよ。
 普段はね、京都の陶芸家の宮本博さんが作ってくれた現代的なデザインに納まって、遠くからご主人たちを見守っているの。ほら見て見て、「ほんのりとして、ふっと安心させる趣き」のあるデザインでしょう。名前のGRIS の文字もフランス語の意味通りに灰色かと思っていたら、何とカラーよ。蓋の<旅猫>なんてお洒落だし、その裏側には<四神獣=青龍・玄武・白虎・朱雀>の文字が刻まれて、ほら、京都の街と同じように守られているの。壺底には私の大好きだったかつお節もあって安心安眠よ。
 
 そうそう、これをつくってくれた「京焼・清水焼」の陶芸作家の宮本博さんって、寡黙ながらも素敵な人で、マルセイユに来た時は数日ずっと海を見ていたそうよ。まるで私みたい・・・。実はね、第1主人である<家のカミサマ>が、今年2月にマルセイユで<京焼=清水焼の作品展>を実施したのよ。その先生方と食事を一緒にした第2主人の香高堂(まあ、呼び捨てになるわね、勘弁して)が3月に日本に一時帰国した時に京都まで行き、宮本さんに私の「安住の場」をお願いしてくれたの。ええ?何で2つあるのかって そりゃ、私は<また旅猫>だから、マルセイユと東京に二つ住まいを持つのよ。
 
 あれれ、私のことばかりで、ご主人たちの紹介だったわね、やはり第一主人の<家のカミサマ>からね。外務省職員であり、在ボスニア日本大使館から在マルセイユ日本総領事館に転任して広報文化を担当しているそうよ。その赴任後間もない昨年9月末にボレリー公園で「秋祭り」が行われたようだけど、夏は暑かったわね。私も仮住まいのホテルで音を上げそうになったわ。「右も左も分からぬままに3日間が過ぎて、この地の日本人の皆様方に大変お世話になった」と二人で話をしていたわよ、もっとも香高堂はお弁当を作って届けるだけだったみたいだけど。
 
 私が聞いていた話では(膝の上で耳をダンボにしながらだけど)、家のカミサマは若い時はジュネーブに赴任してフランス語を勉強したらしいわ。その後は国際報道課、マレーシアのペナン総領事館、セネガル大使館を経て国内勤務、主に広報文化事業を担当していたようよ。サラエボでは毎晩帰宅が遅かったことが思い出されるけど、その間香高堂はあまり遊んでくれなかったわ、プンプン。
 その自称<旅空作家>の香高堂は、ラジオ局で販売促進企画やイベントプロデューサー、40代からは報道と経営企画を担当していたと言ってたわ。でもね、あまり放送番組をつくった記憶が無いとも、何をしていたのかしらね・・・。1988年頃にはエールフランスとプロヴァンス州政府観光局の依頼で南仏のプロモーションもしていたらしいの。だから、アルル、アヴィニョン、エクサンプロヴァンスにも来ていたみたい。今回来たのも何か縁があるのでしょうね。

 そうそう、世間を騒がした2005年のライブドア事件の時はフジサンケイグループ事務局にいて、その事件の渦中で過ごしたらしいわ。もっとも、当時ダカールにいた家のカミサマは「何かあったようだけど、大変なこと?」という反応をしていたけどね、不思議な関係よね。そして、お台場のフジテレビに指名転籍、アナウンサートレーニング事務局長などを経て60歳で定年退職、RONIN生活、そしてサラエボでの主夫生活にはいったのよ。
 サラエボでは使える食材が少ないため、毎日買い物のための坂道の昇り降り、昼間は私との生活始まりとなったという訳よ。そしてマルセイユでのホテル暮らしが始まったけど、私の亡くなる時のことを香高堂が書いたようなので、ご紹介するわ。

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