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【地中海北縁の旅と生活】第4章③<南仏マルセイユ生活始まる>

【地中海北縁の旅と生活】第4章③<南仏マルセイユ生活始まる>

《牢獄のような部屋からの脱出、長引く部屋探し》
 地中海岸近くにあるアパートメントホテルの部屋は1階1号室、客が出入りする玄関の隣、小さなテラスはあるが、陽はそれほど差し込まない。ここに出入りする人々の視線に晒され、窓もあまり開けられないから部屋の空気も重くなる。窓から見えるのは植栽と2本のヤシの木、段々と牢獄にいると思えるようになっていた。
 
 家のカミサマは車で出勤しているが、唯一開放感を味わえるのは午前と午後に買い物に出て、カフェで海岸を眺める時であった。マルセイユは乾燥していると思われるが、意外に湿気を感じる。海に面しているためか潮風に湿り気が含まれているようだ。さらにしぶとい蚊がいるようで、一度噛まれると数日は痒みが繰り返す。まるで性悪女、現在なら性悪男に付きまとわれるようなものであろう。
 
 風邪が治らずに苦労しているのに、何故か元気なのは我が家の「また旅猫=GRIS」。まだ住居が決まらないのに新天地フランスのアパートホテルの狭い部屋で寛いでいる。寝ては寝て、起きては鰹節を要求する日々であるが、満足するとお腹を出して、両手両足を組む。この姿は確か1990年頃に漫画になり、キャラクター人形にもなったアザラシの「ゴマちゃん」に似ている。
 
 10日ほど経ってヴァカンス客も少なくなり、9月6日に部屋の移動をお願いし、夜9時ごろから2時間以上かけて移動した。スーツケースと段ボールに荷物を荒詰めしてエレベーターを往復する。冷蔵庫の食材も面倒で、<また旅猫>の移動にも注意を払った。異動した401号室は南を向いた角部屋である。部屋は狭くなったが、テラスが広い。部屋の引越を終えて一息ついたのは深夜1時頃。7日午前は部屋の片づけ、収納棚があまりないので整理に戸惑る。
 
 昼から、ある方に市内中心部を案内していただき、バスやトラムの乗り方、食材店などを教えていただいた。短期アパートメントの5階から眺めるマルセイユの東西への連続風景、立ち並ぶ家の間からは地中海も見える。もっとも昼間は暑くて外に居られないが、陽も沈み始めると風の通りも良くなり、風の味も感じられる気分になる。
 
 アパートメント探しは進んでいるようだが、我が家の最低条件はテラスとバスタブ、ゲストルーム。何せ家のカミサマは緑に囲まれた静かな立地を望んでいるので、街中や海岸沿いは望めないようだ。マルセイユに到着して3週間、サラエボでの坂道歩きが無くなったためか、身体はコリコリ、ゴチゴチになっている先週は吹き付ける風も強く、陽が差しても気温も25度もいかないぐらいで、上着も必要なほど寒く感じる。
 
《フランスの友人アラン・シャペのお世話に》
 ある日ランチのお招きをいただき、フランスの友人アランの自宅に伺った。マルセイユ郊外のようだが、詳しい地図がないので方向は分からない。車で30分ほどの丘の上、対向車線も無い1本道を走る。途中数台とすれ違うが、20mほどの場に避難スペースらしきところがあり、お互いの車間を図り譲り合う。到着したのはプールなどもある素敵な一軒家である。
 
 私の方が数か月ほど年上だがアランとは同い年、日本旅行作家協会の事務局にいる麻美シャペさんの義父である。建設関係の仕事をしていたようだが定年退職して、今は野菜やハーブづくりに精を出している。アランの息子のニコラは麻美さんと結婚し、今は日本に住んでいるが、この時は自宅に戻っていた。ニコラは日本でフランス語講師をしており、日本語が上手い。
 私のフランス語はまだまだ挨拶だけ、アランとは友人と思っているが、実際はフランス語が出来る家のカミサマとの付き合いになっている。マルセイユに移ってからも何かと相談に乗っていただき、望外の喜びを感じている。
 
 ところで、アランの家にはピザ窯がある。日本のイタリアンスタッフの方々、私の家が落ち着いたらマルセイユに来ていただき、アランの食材を活用して美味しいピザでも作っていただけないだろうか。南仏ワインを呑みながら<アラン家の食卓>を賑やかにして楽しみたいと願う。
 フランスはさすがにワインの国、スーパーで売っている5~6ユーロものでもそれなりに呑める。勿論10~20ユーロも出したらそれ以上の味わいが得られる。そして南仏プロヴァンスはロゼワインの産地、圧倒的にスーパーの棚を占めているが、ロゼ泡は意外に少ない。
 
 アランの食卓に呼ばれた時に、最後に洒落のように出てきたのが飲酒検査キット、欧州は飲酒運転に寛容であったといわれているが、取り締まりは厳しくなっているらしい。フランスでは、自ら計測して自分で運転できるかを判断してもらうという狙いで、2012年から運転時のアルコール検査キットの携帯が義務付けられたらしい。この使い捨ての検査キットは薬局、ガソリンスタンド、大型スーパーマーケットなどで買えるようだ。
 
 日本人の常識では測れないフランスやマルセイユと言う地域の生活文化や地方伝統がある。それを一つずつ教えられているようだ。特に今、アパートメントが借りられない状況にあり、フランス文化と格闘している。
 

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