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黄金(きん)の曜日

日記です。 

8時32分に校門をぐぐる。もう授業は始まっている。今日は元々そのつもりで来た。つまりは授業切りである。図書館で赤本を開く。周りには何人か既に座っていて各々勉強している。空いても混んでもいない、ちょうどいい距離感だ。常に換気を行っているせいか去年より少しひんやりとした空気は緊張感を高めるのにちょうどいい。 少し時間が経って、答え合わせを終えたところで一コマ目の終了を告げるチャイムが鳴る。すると周りの理系がぺちゃくちゃと話を始めて(ここは図書館であるにも関わらず、だ)私の集中もプツンと切れてしまった。こういう時、最も良いのは席を立つことだ。本棚の林に迷い込むと、少しの知っている本と大量の見知らぬ本が私を迎えてくれる(もっと通いつめて読んでおけば…)。その中で一冊の本に目が止まった。

 「学生時代にやらなくてもいい20のこと」

 早稲田大学在学中に作家デビューした朝井リョウ氏がその学生時代を面白おかしく綴ったエッセイ集である。読み始めるとあっという間に半分ほど進んでしまった。流石にこれ以上は学習に支障が出ると判断しキリのいいところで一旦閉じた。しかしどうしてこんなにも楽しいのだろう、受験と全く関係ない本を読むのは(倒置法)。国語は昔から好きだ。でも堅苦しい論説文から挙句の果てには青春小説まで、傍線が引かれ主張やら心情やらを問われるのが時々嫌になる。設問を意識して文章を読むのは結構体力を使う。何だろうこの読まされている感じが私は好きではない。逆に作者の構成した文字の羅列を辿ってその世界に没頭するところに読書の楽しさがあるのだと思う。「想像の翼を広げる」という言葉があるが、その通り本を開いてその世界に飛び込んでいく。あるいは、この現実の世界から飛び出す。日常から一瞬だけ逃げ出して脳を満たし、そして再びここに戻ってくるのだ。 

 さて、私は図書館という場所が好きだ。小中高と入り浸ってきた。本はいつも決まった場所で私を迎えてくれた。読んでも読んでもまだ自分の知らない本がある。自分の知らない世界がある。巨大な森の中を歩いていると人間の存在の小ささを感じるように、ある意味図書館は人間が謙虚になれる場所だと思う(入試なら今傍線が引かれただろうか、そして「どういうことか」などと書かせる)。他の図書館常連客が醸し出すどこか俯瞰しているような雰囲気はここから来るのだろうか。知の厳選たる学校図書館の落ち着いた厳かな雰囲気が私は好きだ。だから取り敢えず、理系の男は図書館で五月蝿くしないでくれ。寝る。