見出し画像

8月の雨とわたしと

いつの間にか夏になっていた。梅雨が明けると空は抜けるように青く、太陽がわたしの肌を焦がす。自転車を漕げば汗が噴き出す。蝉の大合唱はどこに行っても途切れない。テストテスト、レポートレポートに忙しくしていると8月になっていた。

もう、8月なのだ。

高校の夏休みは短かった。補習と称して強制的に生徒を登校させるからだ。特に去年は春の休校の影響で、盆の一週間以外は学校にいた。補習は午前中で終わって午後は自由なのでわたしは図書館にいて本を読んだり、勉強したり、本を読んだりした。どういうわけか去年は夕立が多い年だった。3時を過ぎるとたちまち空が暗くなって大粒の雨が屋根を叩きつけた。本をパタンと閉じて外に出ると、稲妻が光る渡り廊下は横殴りの雨が吹き込んでびっしょりだ。ふと斜め上を見ると、教室には明かりがついている。雷鳴の轟く教室でぐっすり寝ていたあの娘は、今どこで何をしているんだろう。

生まれ育った街を去ってから、その晴れの国たる所以を実感している。引っ越し先は気候的には似たようなものだと予想していたが、そうでもないみたいだ。まず、雨が多い。数日降り続くなんてことは、あの街では滅多に無かったのに。特に梅雨時など、バスの回数券をすぐに使い切ってしまった。次に、天気予報が当たらない。ある日は午後から豪雨だと言うので傘を持ってバスで学校に行ったが一滴も降らず。またある日は終日晴れると言うから安心して自転車で出かけると、夕方突然の雨でびしょ濡れになった。後者の方が頻度としては多いので、疑心暗鬼になったわたしのリュックは常に合羽が入っている。もうあなたの言うこと信じられないわ、これ以上嫌いにさせないで。

最近、雨の日に外出するのが億劫だ。大学のチャリ置き場は屋根が無いし、バス代は高い。去年まではカッパを着込んでチャリを飛ばしたのに。雨の日も風の日も学校に行って8時半から授業を受けていたわたしは本当に偉いと思う。尊敬する。近頃はといえば、平日は必要最低限の授業に出るだけ。休日はもっとひどくて、脳を動かすことなくベッドの上でツイッタワールドとYouTubeを行き来して終わる。昔も今も雨は嫌だが、影響の及び方が比にならないほど大きくなっているのは嘆かわしいことだ。

テストが終わってさあ夏休みだと思ったら、梅雨に逆戻りしたかのような長雨に見舞われた。一昨日も昨日も今日も外でザアザア音がしていて、例の如く一日の大半を寝転んで過ごしている。なんもせずに終わる一日は、存在しなかったのと同じなのかもしれない。恐ろしいことだ。今こんな文章を書いているのも、後から振り返って何かあったと思えるようにだろうか。きっとそうだ。さて天気予報を覗くと、これから一週間以上ずっと雨だと仰っていて憂鬱な気分に…アッ…天気予報は信用できないんだった。こんな予報なんかも、無駄に過ごした一日も、全部嘘ならいいのに。そう祈りながら眠りについた。

翌朝。薄暗い部屋で目を覚ますと窓の外には雨音が聞こえて、ウンザリしたように、そして当たり前のように二度寝した。