見出し画像

人生最大の失敗の買い物

 社会人になったばかりのこと。

 その日、仕事が終わり一息ついていると、セールスマンがやってきた。ブリタニカ百科事典のセールスだった。

 滔々とブリタニカ百科事典の素晴らしさを語り始めた。

 「百科事典の最高峰で、他の百科事典とは、ものが違うんです。中身はもちろん、紙の質も製本も、他の百科事典とは比較にならないんですよ。」と言うや、百科事典を開き、その1頁をつかんで持ち上げ、乱暴に揺すって見せる。

 「普通ならひとたまりもないですよね。どうして破れないかわかりますか? 私たちの身の回りで1番強い紙って、なんだかわかります? 紙幣なんです。この百科事典は紙幣と同じ紙を使ってるんですよ。全く同じ紙を使うことは禁止されているので、限りなく紙幣に近い紙を使っています。」 

 値段を聞くと、なんと30何万。今のお金にしたら、50万は超えると思う。
 そんな高価な物、とても買えないと思った。

 「お高いと思うでしょう? でも、将来、お子さんやお孫さんも使えるんですよ。末代までの家宝になりますから、決して高くはないですよ。」

 学生時代は、いつもお金に余裕のない生活をしていた。
 自分で稼いだお金を、自分の好きなように使えるようになったことが嬉しくて、気が大きくなっていた。
 「社会人になった記念に百科事典を買うのも悪くないか。子や孫のためにも。」と思い始めた。

 「代金は5年ローンでいいんです。給料天引き、1ヶ月5千円くらいなら全然負担にならないですよね。」などと言われ、結局買ってしまった。

 その日、百科事典を買った新採が、私の他に4人いた。

 買ってはみたものの、使うことは、ほとんどなかった。

 重いし場所を取るし、将来、子や孫に迷惑をかけるわけにはいかないので、処分してしまった。

  以下、Wikipediaより抜粋

 「高度経済成長を経て、各社から次々と百科事典が刊行され、人々もそれを求めたこの時期を百科事典ブームと呼ぶ。

 百科事典は店頭販売だけではなく、セールスマンによる訪問販売も盛んに行われた。強引な百科事典の販売が社会問題となった。この時代、百科事典は、応接間の飾りやステータスとしての役割も果たしていたが、場所を取ることもあり、ブームの終息後は廃棄処分されることが多かった。」

 私も該当者の一人です。

#エッセイ #失敗の買い物 #百科事典
#新社会人

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?