利益相反の虚偽申告を罰する法律の必要性
多くの日本人が侵されている病の一つに、行き過ぎた性善説がある。天安門事件、少数民族弾圧、宗教弾圧などを行ってきた現代のナチスと言うべき中国に対して、彼らの善意を前提にして経済援助や関係強化を続けてきたのもその病気が原因である。その病の根底にあるのは、自分が良く思われたいという意識の強さである。それゆえ、目先の争いを避けることが平和的であると考えてしまう。そうした自称「平和主義者」は、中国を経済的に発展させることが、彼らの軍拡を加速化させ、戦争を近づける行為であるという現実に目を背け続けてきた。今や中国の台湾への軍事侵略は、いつ起こっても不思議ではない。この軍事的緊張を生んだのは、中国の善意を信じて援助を続けてきた「平和主義者」である。
過剰な性善説の弊害は、外交・国際関係以外にも見られる。その一つが、医薬産業複合体の善意の過信である。新型コロナウイルスに関して、その治療や感染対策に関して利益相反と思われる案件が多くある。しかし、それを言うと、「善意で新型コロナ対策をしている人々を貶めている」として、激しいバッシングに遭遇する。一昔前、中国を批判した当時に経験したことと同じである。
医薬産業複合体の善意を信じている人は、中国の善意を信じていた人と同じで、基本的に勉強が足りていないのである。中国共産党が過去に行ってきた悪行を知っていれば中国の善意など絶対信じない。それと同様に、医薬産業複合体がこれまでしてきたことを知っていれば、彼らの善意を前提に議論などできないはずである。
医薬産業複合体が起こした問題は、古くは薬害エイズなどがあるが、最近の事例で大きなものとしてディオバン事件がある。(この事件の詳細については、桑島巖医師の著書「赤い罠」に書かれている。)
降圧剤のディオバンが、他の降圧剤に比べて脳卒中や心不全を有意に減らすという研究論文が多数発表されたが、それがいずれもデータの捏造だったことが明らかになった。捏造をしたのは「大阪市立大学非常勤講師」の肩書で研究に参加していたノバルティスファーマ(ディオバンを販売している製薬会社)の社員である。彼には明確な利益相反があるが、論文ではその事実も隠されていた。
Wikipediaの記事に書かれているように、これは多数の大学病院(京都府立医大、慈恵医大、滋賀医大、千葉大、名古屋大)を巻き込んだスキャンダルで、特定の機関だけが腐敗していたという言い訳は通用しない。これらの大学がノバルティスファーマから多額の研究費を受け取っていたことは言うまでもない。
データを捏造したノバルティスファーマの社員は薬事法違反で起訴されたが、地裁、高裁、最高裁いずれでも無罪判決が言い渡された。論文で偽のデータを出して効果を謳うことは、薬事法で禁止された誇大広告に該当しないという理由であった。論文は広告ではないので、薬事法では裁けないという判断である。
この司法判断の影響は大きい。明確に広告の形をとらなければ、お金をもらいながら特定の薬に対して有利になるようなウソを発信しても何の罪にもならないということである。
現在ネット上では、新型コロナウイルスのワクチンや治療薬について、医師の肩書を利用して影響力のある情報発信をしている人がいる。その中には、「私は利益相反がない」と明言している人もいるが、その発言がウソであっても彼らは現行法下では罪に問われることはないのである。製薬会社の立場からすると、インフルエンサーの医師にお金を配って自社の薬にプラスになることを言ってもらうことは、リスクフリーの良い宣伝になる。
利益相反の隠蔽は、新型コロナウイルスの起源に関する論文でもしばしば見られている。実際、後で記述に修正が行われたケースもあるが、学術誌側から著者に対して何のペナルティーも与えられていない。現在、主要な学術誌では利益相反の申告を義務付けているが、ウソをついても何の罰則もないのであれば、利益相反を申告させること自体に全く意味がないことになる。
私が提案したいのは、医薬品に関して利益相反がないと申告した場合、厚生労働省が捜査権をもってそれが事実か否かを調べることができるようにし、その申告がウソだと分かった場合は巨額の罰金を科すことができるように薬事法を改正することである。学界に自浄作用がない以上、外から監視してもらうしかない。政府が監視力を強化しない限り、医薬産業複合体の腐敗が是正されることはないだろう。