新型コロナ武漢研究所起源説の根拠

ラトガーズ大学のRichard Ebright教授が新型コロナ武漢研究所起源説の根拠を列挙したツイートのスレッドが反響を呼んでおり、9/10時点で1.9万以上の「いいね」がついている。彼は8/3の米上院の公聴会でも証言している。

また、Ebright教授は私も参加しているパリグループのメンバーで、私も面識がある(パリグループとは、2021年の年初から毎月1度オンラインで集まり、新型コロナの起源について議論を積み重ねてきた世界の研究者の集まりである)。新型コロナのパンデミック発生よりずっと前から、ウイルスの感染力や毒性を強める機能獲得研究の危険性を訴えてきた人物である。

今回は、Ebright教授のスレッドを若干の補足説明を交えながら翻訳することにする。

新型コロナウイルス研究所起源説の要約

1) コウモリの SARS に似たコロナウイルスによるパンデミックが武漢で発生した。この都市はSARS に似たコロナウイルスを持つ最も近い野生のコウモリの生息地から 1,000 マイルも離れており、コウモリの SARS に似たコロナウイルスに関する世界最大の研究プログラムを実施している研究所の所在地でもある。

2) 2015 年から2017 年にかけて、科学者と科学政策の専門家は、武漢ウイルス研究所が許容レベルを超える実験室事故とパンデミックのリスクをもたらす研究を実施し、かつ実施の検討をしていたことに懸念を表明していた。

3) 2017 年から 2018 年にかけて、武漢ウイルス研究所はヒト気道細胞に感染・増幅し、細胞表面にヒトの受容体を発現するよう設計されたマウスで 10,000 倍のウイルス増殖率と 4 倍の致死率を示す、SARSに似た新しいキメラコロナウイルスを作成した。
※ キメラとは2つの異なる生命体の遺伝子を組み合わせた生命体のことを指す。

4) 2018 年、NIH (米国立衛生研究所)への研究費申請で、武漢ウイルス研究所と共同研究者は、天然のスパイク蛋白遺伝子をヒト細胞への結合親和性が向上するスパイク蛋白遺伝子に置き換えて、SARSに似た新たなキメラウイルスをさらに量産することを提案していた。

5) 同じ2018 年、DARPA(米国防高等研究計画局)への研究費申請で、武漢ウイルス研究所と共同研究者は、コウモリのSARSに似た新規の「コンセンサス」コロナウイルスを作成し、そのスパイク蛋白遺伝子の S1-S2 境界にフーリン切断部位 (FCS) 配列を挿入することを提案した。
※ フーリン切断部位の挿入で、ウイルスの細胞への侵入が容易になることが知られている。

6) 2017 年から 2019 年にかけて、武漢ウイルス研究所はバイオセーフティレベル 2(BSL-2)で SARSに似たコロナウイルスを新たに作成し、その特徴を調べていた。このバイオセーフティレベルは、機能が強化されパンデミックを引き起こしうる病原体を扱うには、またSARS-CoV-2 の感染性を持つウイルスを封じ込めるには、明らかに不十分である。
※ BSL-2はしばしば歯科医院レベルの安全・衛生管理と喩えられる。SARS-CoV-2(新型コロナウイルスの正式名称)のようなウイルスを扱うにはBSL-4の管理が必要。

7) 2019年、ヒト細胞に対して高い結合親和性を持つスパイク蛋白を持ち、そのS1-S2境界にフーリン切断部位を持つSARSに似た新たなコロナウイルス 、すなわち 2018年に武漢ウイルス研究所がNIHとDARPAの研究費申請で作成を計画したのと全く同じ特性を持つウイルスが武漢ウイルス研究所のすぐそばに出現した。

8) 100を超える既知のSARSに似たコロナウイルスの中で、フーリン切断部位をもつのはSARS-CoV-2 が唯一である。だからといって天然起源説が完全に否定されるわけではないが、研究所起源の方が説明がつきやすい。特に、2018年にフーリン切断部位の挿入が研究費申請で明示的に提案されていたのだからなおさらである。

9) SARS-CoV-2 の フーリン切断部位は、コウモリの SARS に似たコロナウイルスの中では珍しいコドンを使用しており、ヒト ENaCa (上皮性ナトリウムチャンネル)のフーリン切断部位と 8つ中8つ全てでアミノ酸配列同一性を持っている。だからといって天然起源説が完全に否定されるわけではないが、研究所起源の方がはるかに説明がつきやすい。
※ 珍しいコドン(塩基配列)とは、アルギニンにCGGが使われていることを指す。それも、アルギニンの連続に対しCGG-CGGと連続してこのコドンが使われている。このコドンはヒトではよく使われるが、SARSに似たウイルス(サルベコウイルス)では殆んど見られない。ノーベル賞受賞者であるDavid Baltimoreは、このコドンを見て研究所起源の「動かぬ証拠」だと言ったことがNicholas Wadeの下記記事に紹介されている。また、ENaCaとの類似性の件は、PNASの下記論文で紹介されている。

https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2202769119

10) 2020 年から現在まで、武漢ウイルス研究所およびエコヘルスアライアンスで同研究所に資金提供・協力した者たちは、情報を隠蔽し、事実を誤って伝え、調査を妨害してきた。ウイルスの起源と関係がないなら、調査に協力することによって簡単に疑惑を晴らすことができたにもかかわらずである。
※ エコヘルスアライアンスはNIHから研究費を受けて、それを武漢ウイルス研究所に回していた米国の非政府組織である。

以上