似非専門家とその信者たち

前回の記事を書いた後、ツイッターの反応を見て、米大統領選と新型コロナ問題の共通点にもう一つ気づいたことがある。それは、いずれの問題においても、ツイッターで騒いでいる人たちは、自分で情報を判断する力は全くないということである。

米大統領選で大規模選挙不正が行われたという人たちは、自分で英語を読むことはできず、及川幸久氏や張陽氏らが発信する情報をそのまま鵜呑みにするだけだった。にもかかわらず、自分は情報通であると錯覚した。そのため、あたかも自分自身が及川氏や張氏と同一レベルの知識があるかのように振る舞った。

たしかに、及川氏や張氏は英語で情報をとれる能力があった。しかし、彼らは情報源の選択や判断を間違えていた。それゆえ、大統領選の結末を見誤った。

立場は異なるが、新型コロナ問題でインフルエンサー医師の信者になった人たちも、これと同じことが言える。SNSでフォロワーの多い医師たちはほぼ全員、研究者としての実績は殆どない。論文もあまり読んでいない。

例えば、木下喬弘氏は、新型コロナウイルスのどの変異が感染力に影響を与えるか全く分かっていないと言った。しかし、実際にはどの変異が感染力に影響を与えるかを調べた論文は多数ある。彼はその種の論文を全く読んでいないのである。また、知念実希人氏も、新型コロナウイルスの感染力に大きな影響を持つフーリン切断部位すら知らなかった。この部位はアルファ株やデルタ株の感染力増強に関係する重要な箇所である。その程度のことも知らずに、新型コロナウイルスの専門家であるかのように振る舞っていたのである。峰宗太郎氏や福家良太氏(EARLの医学ツイート)も、新型コロナウイルスの研究所起源は有り得ないと断定するレベルの論文読解力しかなかった。私から見ると、彼らが米大統領選における及川幸久氏や張陽氏と重なる。

この医師たちは、研究者としての実績も非常に乏しい。彼らの中で、Scopusのh-index(2021年末時点)が二桁ある人は一人もいない。一方、彼らが上から目線で批判する研究者には、彼らより遥かに実績がある人も少なくない。たとえば、イベルメクチンを巡ってSNS医クラにしばしば攻撃される北里大学の花木秀明教授のh-indexは29である。また、峰氏はウイルス自滅説を似非科学であるかの如く扱ったが、それを学会発表した国立遺伝学研究所の井ノ上逸朗教授のh-indexは53である。(ちなみに、新型コロナ感染症の専門家としてメディアにしばしば登場する忽那賢志教授と岩田健太郎教授のh-indexはともに17である。)学者としては花木教授や井ノ上教授の方がはるかに実績があるのに、それに対して上から目線で語るSNS医クラたちの傲慢さには目を覆うばかりである。

もちろん、科学はデータと証拠が全てである。実績がない側が正しいこともある。しかし、上から目線で語るSNS医師たちには、実績だけでなくデータや証拠を見る目もないのは、上述の通り彼らが論文を十分読みこなせていないことからも明らかである。

SNSインフルエンサー医師たちの目的は、専門家を気取ってフォロワーを集め、判断力の無い一般人たちに祭り上げられることなのだろう。実際、SNS医クラのサポーターたちは、米大統領選挙の陰謀論者たちに負けないぐらい熱狂的である。SNS医師の言うことのオウム返ししかしていないのに、自分まで専門家気取りになる点も大統領選陰謀論者とそっくりである。しかし、自分では英語も読めないし、ましてや英語の科学論文など全く理解できないのである。

たとえば、私が前回紹介したモデルナ接種による心筋炎の副反応を報じたNature Medicineの論文について、ツイッターで次のように反応した人がいた。

そこで、論文の一部を引用してツイートしたところ、次のような返信があった。

私が引用した部分(英語)には、この論文が心筋炎、心膜炎、心不整脈で「入院または死亡」したケースを調べたとちゃんと書かれている。つまり、これは重症例のみをカウントした論文である。「論文にざっと目を通した」と自称しながら、その程度のことすら読み取れない人が、上から目線で語るのは滑稽でしかない。その姿は、まさに米大統領選陰謀論者と重なる。

自分で一次情報が判断できないことについて、特定の専門家を盲信するのは非常に危険である。それは、その専門家が言うことが少数派であっても多数派であっても同じである。分からないことは、結論を保留しておけば大けがはしない。私も、経済論争など自分が苦手な分野については、判断を留保するよう心掛けている。皆さんにも、自分が不案内な話題については専門家気取りで一方的な意見を言う人の見解に安易に飛びつかないよう用心することをお勧めしたい。