日本のウイルス学の闇:序章

私は昨年からウイルス学会の会員になっている。昨年仙台で行われたウイルス学会学術集会は研究発表も行った。ところが、今年に入ってウイルス学の研究集会の発表申し込みを立て続けにリジェクトされている。査読付き論文がリジェクトされるのはよくあることだが、国内の研究会や学会の発表申し込みがリジェクトされることはほとんどない。リジェクトされるのは、その研究会のテーマと全く関係のない演題の場合、あるいは学問として成立しないような演題の場合に限られる。

私が新型コロナウイルス研究集会

にサブミットしてリジェクトされたアブストラクト(抄録本文)は次のようなものである。

オミクロン株BA.1復帰変異の時間的・地理的出現パターンの異常
[目的] Tanaka & Miyazawa (2023)は、オミクロン株のBA.1、BA.1.1、BA.2のスパイクタンパクのほぼ全ての変異箇所で、武漢株への復帰変異が見られることを発見した。本研究ではこの現象をより詳しく分析する。
[手法] GenBankに登録された米国内採取のBA.1復帰変異株と、コントロール群としてBA.1、BA.1.1系統の変異株について、データ採取日と採取州を調べた。
[結果]コントロール群は初めに限定された少数の州で生じ、徐々に全米に広がっていくという通常の感染パターンに従っている一方、復帰変異群は初期から全米に広く同時多発的に採取され、そのあと早期に消えていく傾向が顕著であった。各変異株について最初の20標本がいくつの州にまたがって発見されたかを比較すると、復帰変異群はコントロール群より有意に多くの州で発見される傾向(p < 0.0001)が見られた。
[考察] 上の結果から、BA.1復帰変異株拡散に従来の自然感染とは異なる何らかの不自然な要素が働いたことが示唆される。

一方、日本ウイルス学会学術集会

にサブミットしてリジェクトされたアブストラクトは次のとおりである。

ベイズ推定に基づくSARS-CoV-2の起源推定
【目的と意義】Quay(2021)は当時の情報を基にSARS-CoV-2は99.8%の確率で研究所起源であるとベイズ推定で算出した。本研究では現時点で得られている証拠をもとに同確率を再計算する。
【材料と方法】起源の推定に用いることが可能な確率的に独立の4つの事象、(1) 流行前のサンプルでの免疫獲得や当該ウイルス混入割合、(2) Furin切断部位配列の挿入、(3) ACE2受容体結合部位の初期からのヒトへの最適化、(4) 制限酵素切断部位の配置に注目し、それぞれが天然に起きる確率および武漢ウイルス研究所などによるDEFUSE計画に沿った実験で実現される確率を計算する。
【結果】上海と武漢でパンデミック前に採取された計1791のサンプルからは、抗体検査でもPCR検査でも1件も陽性はない。従前の天然ウイルスでは、流行前サンプルからも既感染者が見つかっており、最も率が低かったMERSでも0.015%の陽性率がある。PCRの偽陰性を考慮しても、その割合で既感染者がいるときに1791件の検査で全て陰性の確率は7.9%である。また、約1500のサルベコウイルスのうち、SARS-CoV-2のみがFurin切断部位を有する。DEFUSEでは、これをSタンパクのS1とS2の間に挿入することが計画されていた。さらに、Baricはネコのコロナウイルスを参考にFurin切断部位の挿入を計画したことを米議会の聴取で答えているが、4アミノ酸挿入でその配列を実現する方法は15通りある。一方、一般には3箇所に任意のアミノ酸を入れられるので8000通りの配列がある。加えて、アルギニンの配列にCGGコドンが連続で入る確率は、天然なら3%の2乗、人為的に任意に選ぶなら1/6の2乗となる。SタンパクのヒトのACE2受容体結合への最適化は、DEFUSEでは計画に含まれていたが、天然にこれが起きる確率は、各動物の受容体への結合の強さの分布から3.8%と算出される。さらにBruttel et al. (2022)はSARS-CoV-2のように制限酵素切断部位が偶然等間隔に並ぶ確率を0.07%と算出している。2023年末に情報公開されたDEFUSEの草稿で、同論文の予想通り制限酵素BsmBIを使って6つの部品を繋げる計画が書かれていた。以上の確率を統合すると、事前確率で天然起源を99%と設定しても、ベイズ推定で得られる天然起源の確率は8.4×10^{-12}となる。
【考察】これまでDEFUSE計画に関係する研究者が情報を隠蔽したため、起源の特定に長い時間を費やしている。起源の全容解明のため、全ての関連情報が速やかに公開されることが求められる。

これらのアブストラクトが、研究会のテーマと全く関係のない演題、あるいは学問として成立しない演題に該当するといえるだろうか。

前者については、その成果をプレプリント論文にまとめているが、

海外の研究者グループにも注目され、依頼を受けて近々オンライン会議で講演することにもなっている。海外からそういう評価を受ける研究発表をなぜ日本国内のウイルス学の研究集会でリジェクトされるのか。私には、新型コロナウイルスが研究所起源である可能性が高いことを議論させたくないという政治的理由によるものであるとしか思われない。

日本のウイルス学は、なぜ通常の学問ではありえないほどに閉鎖的な体質をもつに至ったのか。日本のウイルス学の歴史を遡ると、その原点が見えてくる。それは旧日本軍の731部隊である。次回から数回にわたって、今の日本さらには世界のウイルス学が、731部隊の負の影響をいかに強く受けているかについて、具体的な資料をもとに解説していく予定である。