"What really happened in Wuhan"(武漢で本当は何が起こったか)を読んで(その4)
14章 声を上げ始めた科学者たち(その3)
新型コロナウイルスの研究所起源説は、なぜ長い間陰謀論扱いされたのか。この章では、私も月刊誌WiLLなどで紹介してきたカリフォルニア大学バークレー校のRichard Muller名誉教授の発言が引用されている。
一つは、2020年当時にメディアや学界で蔓延していた反トランプ感情である。トランプが研究所起源を言い出している以上、その正しさを証明するような行動に加担すれば、トランプが選挙で有利になる。つまり、ジャーナリストも学者も、自らの党派性のために、本来仕事上与えられた使命であるはずの事実や真理の探究を犠牲にしたというわけである。
また、Mullerは知り合いのウイルス学者や生物学者(ノーベル賞受賞者を含む)と話すと、彼らは「もし中国の不正行為の責任を追及することに発展する可能性のある問題について調べていると分かったら、中国の研究者と共同研究ができなくなる」と語ったことが紹介されている。Mullerはその言葉を聞いて、米国の研究の自由が、中国という独裁国家によってコントロールされており、米国の研究者が中国の不正行為の調査に一切関わる気がないことに強い恐怖を覚えたと述べている(Mullerの同様の発言は、下記のハドソン研究所の講演でも聞くことができる)。
学術雑誌も新型コロナウイルス研究所起源を示唆する論文を拒絶し続けた。Natureなどの主要学術誌に中国の影響力が及んでいることは既に広く知られた事実である。2017年にNature誌を発行するSpringer Natureは、同社が発行する政治科学系学術誌に含まれる台湾、チベット、文化大革命などを扱う論文を中国でアクセスできないようにする検閲を受け入れた。
Nature誌で新型研究所起源説を執拗に攻撃する記事を書き続けたAmy Maxmenという記者がいる。当初、彼女は客観的立場を装っていたが、後にエコヘルスアライアンスのPeter Daszakと懇意だったことが判明したのである。Daszakは、NIHから研究費を受けて、それを武漢ウイルス研究所のウイルス機能獲得研究に流していたことで知られる疑惑の渦中の人物である。MaxmenがDaszakと一緒に写っている写真が発掘されたとき、彼女はその写真は合成であると主張した。しかし、その後実際にイベントで一緒にいた動かぬ証拠が見つかった。中国共産党を擁護する立場をとる人は、彼女のように見え透いた嘘を平気でつく人が多い。
この章の最後に、2021年になって漸く科学者が声を上げ始めたことが紹介されている。一つは"Paris Group"と呼ばれることもある研究者グループによる4つの公開質問状、もう一つはScience誌に掲載された18人の研究者によるレターである。
本の中で、公開質問状の計43名の署名者から抜粋して、前回まで登場したRichard Ebright, Steven Quay, Nikolai Petrovskyなどの名前とともに、日本のHideki Kakeyaとして、私の名前も挙げられていて驚いた。私は4つの公開質問状のうち3つに署名していて目立ったので紹介されたのだろう。
他の署名者に比べ、この問題で私が果たしている役割は非常に小さい。しかし、私がここに加わっていることで、新型コロナウイルスの起源という非常に重要な問題に、日本人も参画していたという歴史は残せた。よって、日本に対する貢献は少しはあったのではないかと思っている。