復讐走路

 チクタク。チクタク。時計の針がリズムを刻む。チクタク。チクタク。チクタク。
 リズムが俺をせき立てる。チクタク。チクタク。チクタク。心臓のビートが早まる。汗がにじむ。息が荒くなる。身体が震える。
「焦るんじゃねえよ」
 相方が言う。
「タタキは初めてじゃねえだろ。ガキじゃあるまいに」
 俺は言い返す。
「何言ってんだよ。てめえもブルってるじゃねえか」
 俺はちらっと横に視線を投げる。真っ青なマニキュアで彩られた白くて細い指が、レミントンの12番をきつく、きつく握りしめているのを見る。
「知るかよ」相方が言う。口調に似合わない、鈴を転がすような声だと思う。「もうすぐ時間だ。準備はいいか」
 俺は頷く。
 俺は手元の銃を見やる。古ぼけたAK。薄れかかった中国語の刻印が、青白いEL照明の光の下、俺にウィンクする。俺はセフティを解除し、槓桿を引いて離す。ボルトが前進し、弾倉最上部の弾を引っかけて薬室に押し込む。
 ボルトと薬室が噛み合う音。
 時計を見る。
 午前0時。
 遠くから車の近づいてくる音。
 傍らで、レミントンのコッキング音。
「時間だ」
 相方が言う。俺は頷く。
 ここからは俺たちの時間。
 強盗の時間だ。

 夢だと分かっている。この後何がどうなるか分かっている。分かっていて、俺にはどうすることもできない。
 どこか遠くで時計がリズムを刻んでいる。チクタク、チクタク、チクタク、チクタク。
 破滅へのゼロアワーに向かって、俺たちは疾走していく。
 チクタク、チクタク、チクタク。
 なぜああなったのか。
 チクタク、チクタク。
 それを俺は知りたくて、そのときまではくたばるつもりはない。
 チクタク。
「起きろ、207号」
 俺は目を覚ます。
(続く)

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