龍の島
ずしん、ずしんという足音と地響きともに、霧の向こうから現れたのは、途方もない化物だった。
とてつもなくでかい。いつだったか動物園で見た象の何倍も大きい。
丸太みたいな四本脚。
長い尾。
でかい胴体。
長い首。
冗談みたいに小さな頭。
そんなのが何頭も現れた。
大概のことには動じない俺たちも、これには唖然として黙り込むしかなかった。
あれは何ですか少尉殿。
軍曹がポツンと言った。
少尉殿は丸眼鏡の底の目を大きく見開き、口をあんぐり開けていたが、ややあってやっと声を絞り出した。
ダイナソアだ。
何ですかそれは。
ダイナソアだ。恐龍だ。
恐龍?
大昔の生き物だ、と少尉殿は言った。一億年も前に滅んだ。
滅んだんなら、ありゃ何ですか。
わからん。だが恐龍にしか見えん。昔読んだ図鑑の挿し絵そっくりだ。ブロントザウルスとかいうやつだ、たぶん。
少尉殿がそう言うなら信じるしかない。
そう言っているあいだにも、少尉殿のいうところのブロントザウルスどもはこっちに向かってのしのし歩いてくる。
どどどどうしましょう撃ちますか。
小沼が震え声で言った。三八式をきつく握りしめていた。
やめろ。撃つな。そんなもの効くわけないだろう。
軍曹が言った。
そうだ小沼。やめておけ。それにあいつらは確か植物食だ。シダやソテツを食って暮らしていたんだ。だから襲われはしない。
少尉殿は言った。
ちょっとその場の空気がゆるんだ。
そのとき、ガサガサと背後の茂みで音がした。
全員そっちを見た。
茂みの中から、やたら色鮮やかな羽におおわれた大きな鳥のような生き物が現れた。
何匹も。
そいつらが口を開いた。
ずらりと並んだ牙が見えた。
逃げろ!
軍曹がわめいた。
俺たちは逃げた。
極楽鳥の化物どもが追いかけてきた。
目前にはブロントザウルス。
踏まれたら死ぬ。
絶体絶命。
畜生。死んでたまるか。
(続く)
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