ダンジョン・ディテクティヴ
2026年11月13日
日本標準時 午後11時47分
愛知県名古屋市 特七号地下迷宮 第三層
その横穴はやけに暗くて湿っていた。何とも言えず薄気味悪い雰囲気が漂っていた。この穴蔵の住民なら、瘴気が充満しているとか何とか言うんだろう。
「ここですね」
小鬼の案内役は流暢な日本語で言った。それからこちらの方を見て言った。
「ほんとに入るんですか? 今から? やめといた方が……」
「虎穴に入らずんば虎児を得ず、って知ってるかい?」
俺がそう言うと、小鬼は首をひねった。俺は苦笑した。
「知らねえか。──こっちのことわざさ。欲しいもののためならヤバいこともしなきゃならねえってこと。俺の場合、仕事だからね。選ぶ余地はない」
小鬼はやれやれという顔になった。
「まあ、あんたがそのつもりならいいですけどね。──〈あばた面のオギー〉の一党だってここには近づきたがらないってのに、物好きなもんですね。あんたらノッポ族と来たら……」
「だから言ってるだろ、仕事だって。できれば入りたくねえよ……」
言いながら、俺は銃を抜いた。自衛隊払い下げのシグ。やつれちゃいるがまあまあ使える。初弾はすでに薬室に収まっていた。
小鬼は銃を見ていやな顔になった。
「それ、できる限り使わないでくださいよ。厄介ごとはこっちもごめんですからね。わかるでしょう」
「善処するよ」
「どうだか。──じゃ、ついてきて。こっちの踏むところをたどってきてくださいね。でないとひどいことになりますよ」
「アイアイ、マム」
俺はおどけて言った。小鬼はますますいやそうな顔になったが、黙って横穴に入っていった。俺は背を屈めてそのあとに続いた。
クソみたいな穴蔵。俺は腹の中で思った。何でまた、こんなところに這いこみたがるアホタレが一定数出てくるんだろう?
(続く)
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