Diffusion of Innovations の解説ー17

Diffusion of Innovations theoryは「よい技術があったとしても、それが普及するとは限らないのはなぜか?」という問いについて考える理論です。

前回から、Innovationはどのように起こるのかについて説明をします。Innovationの発生は6つのステップ、1)課題とニーズの設定、2)研究、3)開発、4)商品化、5)普及、6)結果、から成ると説明しました。

今回は、3)開発、4)商品化についての説明をします。

開発とは、アイデアを実際に課題を解決できる「かたち」に昇華する過程をいいます。では、イノベーションの「かたち」は課題によって規定されるのでしょうか。必ずしもそうではありません。イノベーションの「かたち」は、企業の戦略、政府の規制、などあらゆる要因によって規定されます。例えば、1930年にGEを筆頭とするメーカーよって行なわれた冷蔵庫の開発において、電気式とガス式の二種類がられていました。ガス式の方が静かで性能も高い一方で、電気式の方が採算がとれるという事で、メーカーが電気式を推したため、電気式が一般的な形となったと言った経緯がありました。ちなみに、社会の課題が技術の「かたち」を規定するという考えを社会決定論といいます。つまり開発は必ずしも社会決定論が当てはまるとは限らないというのが重要なポイントとなります。

開発の過程でイノベーションが起きる時には、スカンクワーク、と技術移転が重要な役割を果たしている事が多くあります。スカンクワークとは、少人数の自主的で本流とは外れた開発グループの活動を言います。本流の研究活動に比べて、スカンクワークでは、従来のやり方にとらわれずに開発を行なえるため、イノベーションが起きやすいと言われています。東芝が開発したノートパソコンやAppleが開発したiMacはスカンクワークから生まれたイノベーションの特筆すべき例として紹介されています。

技術移転も、スカンクワークと同じく、従来のやり方に新しい視点が加わると言う点で重要な役割を果たします。技術移転と言っても、単に基礎研究、応用研究から実用へとつながる一方向の情報の流れを指すわけではありません。さらに、情報に関しても、技術に関するものに加え、その使い方、想定する利用者、利用者の課題、などの情報も含みます。これらの情報が、研究者、開発者、販売者、利用者の間を双方向に効率的に行き来することが、イノベーションが起きる環境として重要とされます。

商品化は、開発された技術を、店で売られるかたち、利用者がすぐに使えるようなかたちにすることを言います。細かく見ると、製造、梱包、市場での展開、流通に分けられます。商品化においても、製造から、流通までの流れの中で、情報が効率的に共有することが重要とされます。Xerox Palo Alto Research Center (PARC)は全米の優秀な研究者を集め、1970年から1975年にかけて、ノートパソコンをはじめとする多くの発明を起こしてきました。しかしながら、このAltoと名付けられたノートパソコンの商品化に失敗し、Xeroxはノートパソコン開発をリードしながら市場参入できずに終わりました。商品化失敗した原因として、開発を行なうPARCと市場展開、流通を担う本社との情報共有が円滑に進まなかったことが挙げられます。コピー機を主に販売していたXerox本社はノートパソコンへの市場展開に強い興味を示さず、また、自由な環境で開発をするPARCの文化と、規律を重んじる本社の文化が相容れなかったことが円滑な情報共有を妨げました。皮肉にもPARCを訪れたSteve Jobsがその技術に感銘を受け、技術者を引き抜いたことで、後にAppleがパソコン市場を牽引することとなりました。

このように、イノベーションの開発、製造では、一連の流れの中で、双方向に情報が行き来する状態が重要なのです。

(引用元: Rogers, E.M. (2003). Diffusion of Innovations (5th ed.). New York, The Free Press.)

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