Diffusion of Innovations の解説ー13

Diffusion of Innovations theoryは「よい技術があったとしても、それが普及するとは限らないのはなぜか?」という問いについて考える理論です。

前回は、Diffusion of Innovations theoryの欠点としてPro-innovation biasについて説明をしました。今回は、Pro-innovation biasの対処法について説明をします。

前回説明した通り、Pro-innovation biasとは、普及研究をする研究者が、研究設計をする上で、イノベーションは普及すべきという前提を持つ傾向のことを言います。Pro-innovation biasへの対処をすることは、イノベーションが普及しなかったり、普及したことによって悪影響をもたらしてしまったりということを見逃さないために、とても重要になります。

Pro-innovation biasを防ぐために考えられることは二つあります。一点目は、イノベーションの普及を利用者の視点で考えること、二点目は、これから起きる普及について説明をする方法を考えることです。

イノベーションの普及を利用者の視点で考えることとはどういうことでしょうか。重要な事は、研究者が、イノベーションが普及することを前提としないこと、対象とする人たちを、均質の集団として考えず、個人個人として考えることの二点です。

前回説明した通り、Pro-innovation biasとは、研究者がイノベーションが普及することを前提に研究の設計をする傾向のことを言います。なので、研究の設計時に、普及をしない場合、使われ方が途中で変化する場合など、 あらゆる可能性に注意することがとても重要です。さらに、普及するケースと、普及しないケースを比較することができれば、よりPro-Innovation biasによる影響を考慮した研究設計となります。

もう一つ、研究者は、対象とする人たちの特徴について、全体を均質な特徴を持つ集団として考える傾向にあります。この傾向に対処することがPro-innovation biasを防ぐ重要な点となります。

実際のイノベーションの普及の過程を考えると、イノベーションに関する考えは、一人ひとりで違います。それは、その人の生活スタイルや、価値観、地域の文化などによって変わるからです。こうした一人ひとりの違いに着目し、なぜその人はイノベーションを使うようになったのか、なぜその人はイノベーションの利用を拒否したのかを考察することがとても重要になります。さらに、こうした理由は本人でも言語化が難しい場合があるため、現場の観察を含む研究設計が求められます。最も重要な事は、イノベーションを使うことが合理的な決断、使われないのは、意思決定に問題があったからだと決めつけないことです。常に使う側の目線に立って、普及について客観的に状況を分析することです。

二点目の、これから起きる普及について説明をする方法を考えるというのは、研究手法の工夫による対策になります。普及研究の多くは、イノベーションがすでに普及した状態で、その普及の理由を解明するような設計で行なわれます。この設計自体が普及を前提としており、Pro-innovaiton biasを内包した設計になっていると言えます。これに対し、普及の過程をモニタリングできるよう、数回に分けてデータ収集ができるような研究設計ができれば、Pro-innovation biasの影響を最小限に抑えることができます。

次回は、Diffusion of Innovations theory の欠点の二つ目、Individual-blame biasについての説明と対処方法について書きたいと思います。

(引用元: Rogers, E.M. (2003). Diffusion of Innovations (5th ed.). New York, The Free Press.)

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