Diffusion of Innovations の解説ー16

Diffusion of Innovations theoryは「よい技術があったとしても、それが普及するとは限らないのはなぜか?」という問いについて考える理論です。

今回からは、Innovationはどのように起こるのかについて説明をします。

Diffusion of Innovations theoryでは、Innovationの起こり方が、その後の普及に影響を与えていると説明されています。例えば、誰のどんな課題を解決するのか、研究はどのように行なわれたか、開発や製品化は誰がどのように行なうのか、その経緯によって普及の始点やスピード、規模が変わります。

Innovationの発生は6つのステップ、1)課題とニーズの設定、2)研究、3)開発、4)商品化、5)普及、6)結果、で説明されます。

1)課題とニーズの設定
課題やニーズの設定は、イノベーションの起こりの第一歩です。ここで、課題とニーズを認識することと、課題とニーズを設定することの間には大きな差がある事を理解する事が重要となります。一つの例として、米国で自動車が普及し始めてから、高速道路の事故が多発し、自動車の安全性への課題が認識されるようになってから、自動車の安全性能に規制がかかるまで、多くの年数がかかった事が挙げられます。その背景には、前回話したindividual-blame bais、事故は個人の不注意によって起こる、といった考えがありました。自動車の安全設計の規制は、年間事故死亡者数が50,000人を超えたという数としてのインパクトと、研究者たちによる調査実績により、条例が改正され実施へと至りました。この例でデータの蓄積とその分析が果たしたように、課題やニーズは認知されるだけでなく、明確に設定する必要があります。

2)研究
Innovationといったとき、多くの場合、技術(technology)の事を指します。研究は、科学的原理と社会的ニーズの関わりの間で行なわれます。科学的原理は基礎研究によって整理され、それを社会的にニーズに適用できるように応用研究が行なわれます。研究のプロセスは、基本的に基礎研究から応用研究へと進んでいきます。しかし、必ずしもスムーズにこのプロセスに乗った研究だけがイノベーションになるとは限りません。その例外の一つにセレンディピティ(偶然の発見)があります。例えば3Mのポストイットは、接着剤の開発の失敗に目をつけ、それを応用した事により生まれました。またUpjohn社が1900年代中頃に開発した血圧を下げる薬による副作用から育毛剤のミノキシジルが開発されました。研究者に限らず、開発者や一般の利用者の発想も時にセレンディピティを起こします。特に、課題に実際に直面していて、その技術を必要としている人をLead userと呼び、科学の実用化において重要な役割を持ちます。また、異なる知識を掛け合わす事によって、新たな価値をもつ技術が生まれます。そのため、基礎研究者、応用研究者、Lead userの間で情報や意見の交換が行なわれる事が、innovationの起こりには重要となります。

次回は3)開発、4)商品化についての説明をします。

(引用元: Rogers, E.M. (2003). Diffusion of Innovations (5th ed.). New York, The Free Press.)


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