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記念日の外食 男性育休記66/68

すっかり年の瀬、とっくに幼稚園は終わり、外出先のバリエーションも枯渇している。何回行くんだよと我ながら思うが、またあてどなく午前中IKEAに行き小物を買ってから、お昼は良い小籠包のお店に行く。そういえば今日は我々夫婦にとっての記念日でもあった。年の瀬にしておいて良かった。忘れにくい。
年末でもあり、バイトのシフトが埋まらなかったのだろうか、メニューに「小籠包以外のメニューはお待たせする場合がございます」と張り紙がついていた。珍しいなと思いながら、普通の小籠包と別に、スタンプみたいなやつがめちゃくちゃ溜まってたので思い切ってアワビ入りの小籠包、あとラーメン的なやつを大人2人分頼んだ。

ところで、隣のテーブルが気になる。

70歳前後と思われる老夫婦なのだが、片や奥様はランチセットの最後だろうか、杏仁豆腐的なやつを食べ終えかかっているのに対し、ご主人の方にはこれといって食事が届いている気配がなく、温厚そうな顔を若干こわばらせて、テーブルに肘を置いて顔の前で手を組んでいる。

いわゆる、碇ゲンドウポーズである。

なんて思っている間に、小籠包が続々到着した。
うちの2歳児は、基本的に熱いものをまったく食べてくれないので我々は季節を問わず携帯用のUSB扇風機を持ち歩いているが、この小籠包だけは割と熱いまま食べる。
めっちゃくちゃ、食う。
じゃあ家で作ろうかなと思うこともあるが、小籠包ほどめんどくさい料理はなかなかないので無理だ。冷凍でおいしいやつを探しておこうか。
とまあ、そんな取り止めの無い話をして、私たちも食事をしていた。アワビの小籠包はとても美味しかった。そして私たちのラーメンが到着する。2歳児の分を取り分けて冷ます。

そういえばと思って碇ゲンドウを見てみると、怒りにフルフルと震えていた。

もしかして、まだ注文の品が届いていないのだろうか?私たちよりだいぶ早く来てそうなのに?

私たちのテーブルの問題では無いとはいえ、怒りに震えて最早意固地になっていると思われる碇ゲンドウのために、代わりに私が店員を呼ぼうと思った矢先、ずっとホールを動き回っていたお姉さんではなく、「あっ、これは店長だな」と思われる、なんというか、ちょっとぽっちゃりされた40代後半くらいのメガネの男性、六角精児さんみたいな方がラーメンを持って颯爽とゲンドウのところに歩み寄った。調理者用の帽子を、接客用の帽子の下に重ねて被っている。厨房から来たようだ。とっても忙しそうだ。

「大変お待たせいたしました。申し訳ございませんでした」

そうだろうそうだろう、私から見ても相当待っているし、ここ5分くらいの動きを見てもまだ小籠包食べている私たちより、ゲンドウを優先すべきだったのは明白である。

ゲンドウはしかし、非常に温和そうな顔を元々していることからの類推だが、あまり怒り慣れていないようであった。声がうわずっている。

「ラーメン一つにこんなに時間がかかるもんですか?もう40分待っています」

40分も待ってたんか、それは…と思ったが、店長は取りも直さず平謝り、理由はむにゃむにゃ言っていてよく聞き取れなかったが、とにかく小籠包以外のメニューは本日お時間をちょうだいしているの一辺倒で謝り続けていた。
私たちは気まずさを感じながら各々の麺を啜った。

ゲンドウも、無言でラーメンを啜り始めていた。なんか、一心不乱に、なんならちょっと笑顔で結構美味そうに食べていた。お腹が空いていたのだろう。

私たちが先に食べ終えて、2歳児をベビーカーに搭載、0歳児は引き続き抱っこ紐にインして会計に向かうと、残像が発生するようなすごいスピードで店長が現れて会計をしてくれた。
スタンプの集まりぶりで常連だと判断されたのだろうか「お味の方はいかがでしたか?」と聞かれて、最後気まずくてラーメンは味がしなかったよと思ったが「おいしかったです」と答えた。

会計を終えて、また残像を発しながら厨房に戻る店長を見ながら、抱えている0歳児の頭を撫でた。

「この子たちが飲食店をやりたいと言ったら、それは1回止めようか」

「そうだね」

そんな会話を、妻と、した。


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