見出し画像

椅子の才能

この日記が始まったときから、私は年長児として相対的に若干の冷遇をされていくのではないか、という観点に基づき長男のヨシタロウを全力で甘やかしてきた。

そしてどうだろうか、「もう絶対抱っこしなくて良くないか?」というサイズ感、したいとかしたくないとかじゃなくて物理的にしんどい16kgくらいになってもヨシタロウは「パパだっこしてぇー!」の揺るがないスタンスを持っている。

なので私もまあ、土日とか、平日も在宅の時の朝とかは抵抗する理由もないから「パパのうえにすわりたいのぉ〜」というヨシタロウの叫びに従い、ただひたすら彼の椅子としての生活を決めている。

ちなみに私が椅子を嫌がると「ねぇ!機嫌が悪くなったら大変なの私なんだから大人しく上に乗せてあげてよ!」と妻がキレ、椅子を受け入れると「ねぇ!座らせてないでさぁ、なんで私が保育園の着替えとか全部やらなくちゃいけないの?どかせたらいいじゃん手伝ってよ!」と妻がキレるので、私は私で、スト2に喩えるなら「立ち上がりに被せられた波動拳を防御したら硬直時間で投げられる、防御しないと普通にくらう」みたいな、ハメられた!というお気持ちを抱いたこともあった。

だが今は、「どっちみち妻がキレるのなら、せめてヨシタロウの顧客満足度は高めていこう」と考えて、基本的に椅子をやっている。

私がヨシタロウの椅子をやっていると、飲食ができない、トイレにいけないなどの不自由があるが、ギリでスマホは触らせてくれるので私も嫌だが(特にトイレ)、別にこの椅子が嫌なわけでは無い。

しかし、それにしても、まったく卒業の気配はない。ヨシタロウは「パパのうえにすわりたいの」と、1日に216回くらい言うようになっている。

もしかして、私の座り心地って、良いのか?

そんなよく分からない自惚れをした矢先。妻がヨシタロウとともにヨシタロウフレンズの家に遊びに行くイベントがあった。ママ同士もジャニオタで仲良くなったのだ。

ただ、この企画には私と、1歳児ヨシスケがあぶれる。

「ま、ヨシスケちゃん見とくから行ってきたら」

私の、ほとんど何にも考えてない私の提案に、妻とヨシタロウはしっかりと乗り、二手に分かれた。

それにしても、ヨシスケである。

可愛いかどうかでいうと、「顔は可愛い」と思うが、なんせそれも自分の若い頃に激似なので、自意識過剰なんでしょうが大声では言いづらい。

美味そうだな。とはいつも思っている。

なんか。ムチムチぷりぷりしてて、美味そうなのだ。

いや、私はカニバリズムは別に嗜まないのだが、それにしてもヨシスケはムチムチぷりぷりしてて美味そう。生まれたときから、1歳半が近づく最近まで「ポン酢をつけたら美味そう」という感想から「ポン酢をつけて、柚子胡椒をさらにつけても美味そう」という、美味そうの解像度が上がったけども、私はとにかくずっと美味そうだと思っている。

子どものことを、「美味そうだと思っている」とは、なかなかよそでは言えない。私の場合は平素の行いのせいか、大体の人に真にうけられて、目を見て「本当に食べるなよ」と忠告されたりするため、気軽にジョークとしても本当によそで言えない。

でも、本当にうまそうなのだ。

赤ずきんちゃんと狼が同居してるみたいな話だが、まあ、実際のところ私は本当には食わないが、とはいえ椅子で忙しいので、なにげにサシで絡んだことがあまり無いので、とりあえず、「屋内遊園地」に連れて行った。2時間で2000円くらいする、あのあれである。

やれ、ボールプールたとか。

やれ、でかいマットとか。すべり台とか。いろいろある。あのアレ。

「てー!!!」

令和には残っていない、ブライト・ノア艦長のモノマネで私はヨシスケをボールプール方面に放った。いけ、ヨシスケ。ボールの海を蹂躙せよ!そう思った父艦長の期待を背負ってから、ヨシスケ1.5歳はボールプールに走っていき、そのあと15mくらいで折り返して、爆笑して戻ってきた。

感動の再会というか、離れて10秒くらいしか経ってないが、はっきりと私に抱きついてきた。えっ?可愛いけどマジで何?

「うえにのりたいの」

「お、おう」

気圧された私は、ヨシスケを膝の上に乗せた。そのままアグラをかいた。

ヨシスケはご満悦そうだ。

いいけど、いいんどけど、そのままとくになにをするでもなく、ヨシスケは屋内遊園地の初期精算金額通り、つまり2時間私の膝に座り続けた。

えっ?

ボールプールとかは?

マジで、なんで?

金払ってここ入った意味よ。

いやでももしかしたら、いつも兄のヨシタロウが座り続けているので、内心憧れていたのかもしれないなとか、いろいろと思うが、「とはいえ2時間は長い」である。

そして、私の記憶が確かならば、1歳児ヨシスケは「まま」「ぱぱ」「ばあば」は言えるが、あとはダーとかアーとかしか言えないはずで、大スポンサーこと「じいじ」もまだ言ったことがないし、兄のことを「にぃに」と呼んだこともない。

そんな赤ちゃんが「うえにのりたいの」って、よく考えたら随分はっきりと一文を言わなかったか?そう思って戦慄した。

よく分からない、よく分からないが、私の膝には、私の人間椅子には、人を狂わす何かがあるのかもしれない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?