デザイナーを名乗ること。

実は、「デザイナー」という単語が苦手だ。

コピー屋さんで働く私。
時々、チラシやポスターの制作を依頼されることがある。

だけど、お客様から「『デザイン』してください」と言われると引っ掛かりを感じるし、上司が私を社外の人に紹介する時「当社の『デザイン』担当者です」と言われようものなら必死で否定する。

「私、デザイナーじゃないんで…!」

今まで何回言っただろう。
「私、デザイナーじゃないんで。」
その度に息苦しさを感じて、冷や汗がでる。

「いやいやいや、私なんて、デザイナーを名乗るほどのものではありませんので!!!」

デザイナーは、医者や美容師とは違って資格がいらない職業だ。
誰でも名乗った時点でデザイナーになれる。
学生でも老人でも本職でなくても、ぶっちゃけデザインが好きでなくても、今すぐデザイナーになれる。

もし、お客様が望むデザインを提供できなくても、マッチングがうまくいかなかっただけ。

でも私は名乗れない。
正直、私はデザイナーとしてデザインを評価されることから逃げたい。
「デザイナーなのにこんなクオリティw」って思われたらツライじゃないか。
「素人が作ったにしてはマシやん」って思われた方が傷つかなくて済むしー。

と、ここで矛盾があることに気づいた。

私は「オペレーター」と名乗ることはできるのだ。
オペレーターも資格が不要な職業で、そもそも私はオペレーターとしても半人前というのに。
例え「オペなのにこんなことも出来ないの?」と言われても、それはそれでちゃんと受け入れられるのだ。
「すみません、不勉強で…。もっとがんばります!」と返すことができる。

デザイナーとオペレーター、私にとって何が違うのか。

デザインは、センスが問われる。
センスって生まれてから自分の中にストックされてきた「経験」だと思う。
対してオペレータに必要なのは「知識」がメイン。
もちろん、知識を増やすことも簡単じゃないけども、意欲さえあれば勉強はいくらだってできる。

デザイナーとして足りないのは、経験。
私の中では、いつの間にかそれが「制作数」でなく「苦労」に言い換えられていた。
どうしてだろう。

デザイナーさんの体験談ではしばしば苦労が語られる。
「丸3日徹夜した」「上司にダメ出しされ続けた」「仕事中倒れた」
今はこういう働き方は問題視されるけど、インタビューの中では美談になる。
苦労に苦労を重ねた結果の成功体験。
いつの間にか、こういう経験がセンスなんだと思い込んでいた。

私には、こんな経験はない。
デザインにダメ出しする先輩もいないし、残業もほとんどない。
お客様から直接叱られることもない。
苦しんで苦しんで生み出した成功体験がない。
今までのぼんやりした経験(センス)を否定されることは、自分自身を否定されるようで耐えられないと感じた。

あ、これが「デザイナー」と名乗れない理由か。
自分の中の結論にたどり着いたとき、似た事例があることに気づいた。

もしかしたらこれは、
「帝王切開」で子どもを産んだ人が「自然分娩」で産んだ人に引け目を感じることと同じじゃないか?

帝王切開と自然分娩にはそれぞれメリットとデメリットがある。
本人の希望もあるけども、医者は母子の健康状態を最優先に分娩方法を選ぶ。
ただそれだけの話。
生まれたこどもにはなーんにも関係ない。
でも、帝王切開で産んだ人の中には「産みの苦しみを経験できなかった」と悩む人がいる。
痛みの体験の有無と健康な子どもが産まれるという相関なんてないのに。

痛みや苦しみがあったから子どもが産まれたわけじゃないのに。

あれ?もしかして、
デザインの産みの苦しみを知らないことと、仕上がったデザインって関係ない? 自分自身は否定されない?

もしかして、
子を授かったら母になるように、デザインがそこにあったらデザイナーと名乗ってもいい?

もしかして、
私、デザイナーって名乗ってもいいのかな。
とりあえず、個人の名刺にでもちっちゃーく載せてみようかな…と思えた今日。


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