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創作テキストまとめ

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ものがたりのテキスト記事などまとめ。
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#小説

Dear mine.

ひさしぶりに短い物語を書きました。明るくはないお話ですが、夜の景色を綺麗に描ければ良いなという目的の元に作りました。  新月。星ばかりがきらきらと瞬く月のない夜。深い藍色の冷たく冴え渡った大気に、星々は柔らかく揺らぎ、天球で砕けた氷の欠片のように澄んだ光を放っている。  僕のぐるりを見渡せば、辺りの景色は一面、漆黒の影絵のようなシルエットで縁取られている。腰の高さまで生い茂る草木、枝葉を空へと伸ばす木立。まるで天にある何かを必死に掴もうとする巨大で得体の知れない生き物が、大

遠い夏の日の花びらのかおりに、想う。

 いまでも時々、あなたのことを思い出す。  休み時間の廊下であなたとふたり、窓の外の青空に浮かぶ真っ白い入道雲の、もくもくと盛り上がった天辺あたりを眺めながら、わたあめ食べたいねえ、いや、かき氷じゃねえ?なんて、他愛ない話をしていたら、 「花火、見に行かない?」  不意に訊かれて、わたしは少し緊張しながら答えた。 「いいね。じゃあ沖さんも行けるか、訊いてみる。澤井さんは来れるのかな?」 「来れるんじゃない?訊いとくよ」  あなたは少し何かを考えるように視線を泳がせた。そうだ

出来てないことだらけで、出来てるひとが羨ましかった。

 混雑率180%のシルバーの車両が揺れる度に、誰かの腕や背中でこれでもか言わんばかりにぎゅうぎゅうに押された。私が洗濯物ならしっかりもみ洗いされて降りる頃には驚きの白さだ。  クタクタになりながらしょうもないことを考えているうちに、電車のドアが開いた。乗客がマラソン大会のスタートを切るみたいに一斉にホームへなだれ込む。  私はつり革を必死に握りしめて人の流れに逆った。けれど肩に掛けた鞄が降りる人たちに巻き込まれ、体ごと持って行かれて、目的地でもないのに車両の外へ吐き出された。

あとがき。

 この度は「月のウサギに罪はない」をお読みくださり、ありがとうございます。  初めから読み続けて下さった方々、頂くスキがとても励みになっておりました。途中から読み始めて下さる方、1話だけでも読んでみようと覗いてくださる方もいらして嬉しかったです。  この記事には話を作る上で気をつけた点など書き留めました。読めるところまで読んで頂ければ嬉しいです。 (一話目→ https://note.mu/hiyokodou/n/nc8c83d15cae5 ) (八話目→ https:

あとがき。

 この度は「いつか会えたら」をお読み頂きましてありがとうございましたー!  この記事には話を作る時に気をつけたことや感想などを書き留めました。読めるところまで読んで頂けたら嬉しいです。 (いつか会えたら→ https://note.mu/hiyokodou/n/nbb0e2507f4ff ) 「いつか会えたら」は "絶対に告白してはいけない相手に告白する掌編小説を、400字×5枚〜10枚で書いてください"を、いっしょにやりませんか? https://note.mu/sto

いつか会えたら

https://note.mu/storyofmylife/n/nc70f61186de8 こちらの課題のお誘いにトライです。 力を込めて書きましたが、この話はなんかイゴイゴしてるというかなんというか…。文字数、ギリギリ…(しおしお)。  春にそそのかされた白梅が神社の傍で咲き誇っていた。  人々が行き交うけれど参拝が目的ではない。祀られているのは馬頭観音菩薩で、僕らは競馬場の敷地内にいた。僕は祠を眺めながら傍らの女性に話し掛けた。 「面白いな、競馬場の中に神社があるのか」

あとがき。

 この度は「はじまりのキス、終わりのキス」をお読み頂きましてありがとうございます。  初めから読んでくださっている方、途中から読み始めて1から読み直して下さる方、途中の一話を読んでスキを下さる方。大事なお時間を頂いて読んで貰えてありがたいなあと、スキにとても励まされました。毎回「投稿する」ボタンをクリックする指が緊張で震えておりましたので。  私の主な活動はイラストと漫画ですが、鍛錬のためにと書いているテキストにサポートを頂くこともあります。身の引き締まる思いです。時には

はじまりのキス、終わりのキス(6)

恋の話です。六回に分けて投稿します。読めるところまででも読んで頂けたら嬉しいです。一つの記事につき1500〜1800文字です。最終話だけ1900文字を越えてしまいました。後ほど別記事であとがきを投稿します。 (前のページ) (初めから読む)  床の上のスマートフォンが早く起きろと急かすように震えていた。  寝転がったまま繰り寄せると昨夜と同じ発信元だった。うんざりしながら着信を拒否する。不意にドアの向こうから男の声がした。 「ご立腹なのはわかりましたから、少し話を聞いて貰

ばら撒かれた夢

 一昨年くらい前に書きました。  男が内面を低いテンションで語っています。ちょっと物足りない感じの話ですが、自分的な目印として投稿します。原稿用紙22枚分(6840文字)  今日もまた、気怠い朝が来る。  晴れならまだしも、曇りや雨は尚のこと憂鬱だ。  月曜から金曜まで、人の群れが交差点を行き交う。見えないレールが敷かれた道を、迷いもなく進む様は、まるで、意志を持った大きな川のようだ。  僕もまた、その決まりきった流れに身を委ねる。時には土日を潰してまで。  人波を泳ぐとい

はじまりのキス、終わりのキス(5)

恋の話です。六回に分けて投稿します。一つの記事につき1500〜1800文字です。 読めるところまででも読んで頂けたら嬉しいです。 (前のページ) (初めから読む)  部屋の中は夜が明け方とともに音を吸い取っていったみたいに静かだった。  しんと冴えた朝の空気が薫る煙のように緩やかに漂って、一夜の終わりを仄めかす。私はそろりと起き出して身支度を整えた。玄関ドアの前に立つと背中越しに彼の気配がした。もう一度抱き寄せてキスをするような甘い兆しは微塵もない。 「僕の連絡先は消して

はじまりのキス、終わりのキス(4)

恋の話です。六回に分けて投稿します。一つの記事につき1500〜1800文字です。 読めるところまででも読んで頂けたら嬉しいです。 (前のページ) (初めから読む)  目を醒ましたまま、うたかたの夢を見るようだった。  ついばむような口づけを重ねるうちに吐息はやがて熱を帯びて、唇で深く繋がっていく。その先にあるものを幾度か想像したことがある。彼の細長くてきれいな指が私に触れる度に、劣情で胸が疼いた。  事が済めばすぐに背中を向けてしまう無粋な男だとばかり思っていたけれど、ま

はじまりのキス、終わりのキス(3)

恋の話です。六回に分けて投稿します。一つの記事につき1500〜1800文字です。 読めるところまででも読んで頂けたら嬉しいです。 (前のページ) (初めから読む)  冬に向けて日が短くなり始めていた。  彼との関係は相変わらず宙ぶらりんだった。暇だから遊びましょうと私が話を振ると、やはり気乗りしない様子で応じた。   彼は言葉の端々に、ここから先は立ち入り禁止ですと透明な規制線を張っていた。煙草の煙はすり抜けるのに私にとってはガラスよりも強固だ。気が進まないなら断ればいい

はじまりのキス、終わりのキス(2)

恋の話です。六回に分けて投稿します。一つの記事につき1500〜1800文字です。 読めるところまででも読んで頂けたら嬉しいです。 (前のページ)  彼が本社に転属して直属の上下関係がなくなって、月に数回、あるいは季節をひとつまたいだ頃に思い出したように私からメールを送る、ゆるいつながりになった。  ある冬。週末に兼ねてから楽しみにしていた映画が封切られ、友人と二人で観に行こうと嬉々としてチケットを取った。出掛ける段になって風邪で具合が悪いとメールが入って、くれぐれもお大事

夜の魚

寂しがり屋の話です。風変わりな女性を描こうとして書き始めたのですが、なんでか静かな話になりました。お時間ありましたらお読み下さい。  真昼の空に白い光が短く尾を引いた。  無音の雷。 「雨でも降るのかな」  僕は呟いて公園のベンチから腰を浮かせた。歩きながら時計を見る。12時52分。余裕で昼休み中に会社へ戻れる。通りに出て古ぼけたビルの前で立ち止まった。カードキーを兼ねた社員証を取り出そうとポケットを探る。途端にさあっと血の気が引いた。  財布がない。  いつから、と頭を巡