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木嶋哲は日が落ちて暑さが幾分和らいだ川辺を歩いていた。 街並みは黒い切絵のようで、すれ違う人の姿がかろうじて判別できる程度だった。 芯のある伸びやかな声が、たんぽぽの綿毛のように風に乗って哲の耳元に届いた。子守唄に似た調べは眠気を誘い、夕焼けがまるでとろとろに溶けた蜂蜜みたいに見えた。 その後も夕暮れの川辺を歩く度にどこからともなく歌が聴こえた。耳を傾けると、仕事に追われてくたびれた心のかさぶたが剥がれ落ちるようだった。 歌う人の姿を知らないまま、ひぐらしが夏の終わ