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世界がもし10人の村だったら

この広い世界のどこかに10人だけの小さな村がありました。

この村はごく普通の川のほとりにあり、ごく普通の暮らしをしている小さな村でした。でも、ただ一つだけ変わっているところがありました。たった10人の家族みたいな村なのに、信頼の代わりにお金が使われていたのです。

登場人物は次のとおり。

  • 魚くん:釣りをして魚をとる人(2022年の年収:270万円)

  • 肉まん:狩りをして肉をとる人(同:290万円)

  • お米さん:田んぼでお米を育てる人(同:320万円)※豊作

  • 野菜さん:畑で野菜を育てる人(同:280万円)

  • 大工さん:家を建てる人(同:80万円)※修繕と道具作りの年

  • 服屋さん:服をつくる人(同:280万円)

  • 保母さん:子育てする人(同:260万円)※妊娠中

  • 遊び人:みんなを楽しませる人、芸人(年収300万円)

  • 子ども1:子ども1(来年大人になる)

  • 子ども2:子ども2

日常必要な仕事をきちんと価値に換算し、そのやりとりをお金でしていたのです。みんな仲良く、自分のできる仕事をしっかりこなして、しかしお金を挟んでドライな価値のやり取りをして暮らしていました。

魚くんは毎日魚をとって、村人に売っていました。だいたい週に50匹くらいとれます。1匹=1,000円くらいで売ることができます。

肉まんは、狩りをして肉をさばき、村人に売ります。だいたい週に5匹くらい(肉になるのは10kgくらい)の動物をとって、1kg=5,000円くらいで売りさばきます。

お米さんは、1年間を通じて1トンのお米を作ります。その年の取れ高によって変わりますが、およそ1kg=2,600円くらい。

野菜さんは、1年間を通じて1トンの野菜を作ります。1kg=2,600円くらいです。

大工さんは、10年間かけて1件の大きな家(1,300万円)1つと、小さな家(400万円)を3つ作ります。1年間にならせば260万円くらいの年収ですが、昨年は新築の必要がなかったので、材料の段取りと道具作り、そして壊れた扉や床の修理くらいでした。だから今年は貯金を取り崩しました。村で貯金をしているのは大工さんくらいのものです。

服屋さんは、週に1着の服をつくります。1着=5,000円くらい、服の修理をしたり、布団カバーやシーツも作ります。

保母さんは、2人の子どもの面倒をみます。村の7人の大人たちからそれぞれ約3万円/月をもらっています。

遊び人は、村人の喜ぶ芸をしたり温泉を作ったりします。1人いくらかの入場料だったりおひねりだったりで毎週の収入があります。村一番の人気者です。

2人の子どもは、勉強したり食べ物の取り方、作り方などを学び、将来は何かの職業につきます。例えばこの村一番の年長者は魚さんなので、子ども1は次は魚とりになるべきだなと考えています。収入はお小遣い程度でほぼゼロ。村人みんなに育てられます。

村にあるお金はぜんぶで2,080万円。だいたい平均260万円くらいを大人の村人は持っています。

村人みんなが使う道路を作ったり広場の草刈りなどは、みんなでお金をだして、みんなで働き、みんなでそのお金を持ち帰るという一見無駄なことをやっています。そんな妙なお金のやり取りも合わせて一人あたり年間300万円くらいの収入があり、300万円くらいを支出しています。

こうやって毎日、毎年、村人の中でお金はぐるぐるとまわっていきます。

村人たちは、大工さんの作った頑丈で暖かい家に住み、ごはんと肉と魚と野菜を食べ、服屋さんの作った着心地の良い服を着て、週末には大道芸を見て子どもの成長を見ながら楽しく過ごします。とても豊かで幸せな暮らしでした。

ある日この村に1人のMBAコンサルタントがやってきました。「この村の経済を成長させよう」といって、自分が銀行役になり、村人にお金を貸すことをはじめました。

と言っても村人に余分なお金はなかったし、MBAコンサルタントも村で通用するお金をもっていなかったので、資金ゼロです。でも信用創造があるから大丈夫、理論上は無からお金を生みだせると言って村人みんなに「預金口座」を作らせました。

これまでのような現金での取引ではなくて、口座上の預金で仕事の価値をやり取りするようになりました。お金は不要になったので、MBAコンサルタントがお金をすべて預かり、それを資金源に村人みんなに780万円ずつの預金を貸し付けたのです。

村にあるお金は一気に3倍になりました。それだけでなく、来年大人になる子ども1の分も簡単に信用創造で生みだすことができます。なんせ台帳に数字を書くだけですから。

これまでわざわざお金を扱っていたのがなんだったのかと思うくらい、預金でのやり取りは便利でした。お金の保管の手間も両替の手間もいらず、偽札を危惧することもありません。ただ台帳に日々のやり取りを数字で書いていくだけでよくて、人が増えたらその分数字を増やし、人が減ったらその分減らすだけです。

大人の村人たちの年収が3倍に、GDPも3倍になりました。ものの価格も3倍に取り決めたので、取引金額も3倍になったのです。最初は以前の安い金額で取引をしてしまったりと間違いもありましたが、すぐに3倍の金額に慣れました。

MBAコンサルタントはコンサル料として、年収の約12%である97万円を村人たちからもらい、その預金口座の管理をすることで自分もおよそ780万円の年収を受け取りました。

村人たちは口々にこう言いました。

「MBAコンサルがいなかったら、村に2,080万円しかないお金を11人で分けることになる、そうなると1人あたりの収入が減るので、お金を取り合うケンカをしないといけなかっただろう。MBAコンサルが来てくれてよかった」

そんなこんなで、11人になった村人たちは、経済成長を喜び合い、次に子どもが生まれて12人になる未来を楽しみにしながら、みんなニコニコ仲良く暮らしました。

おしまい

……

子ども1「なぁ俺たちが大人になったらお金なくさない? いらないでしょ」
子ども2「だめよ、MBAコンサルさんのお仕事がなくなっちゃう」

……
魚くん「なんか今年、お金足りない気がするで、でも収入増えとるのは確かやけん、おかしいなあ」

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