骨のガーゴイル【リファイン】

ぬっぺりとした大理石の床に響く足音が1つ。
それはこつ、こつ、と規則正しくゆっくりとした足取りで歩を進めている。
彼の名はラルフ。旅装束を兼ねた鎧を身に着けており、
手には使い込まれたロングソードと、傷の多い軽鉄の円盾を携えている。

彼がなぜこの様な寂れた城のエントランスを歩いているのか。
それは本人でさえよく覚えていない。
ただいつものように気の向くまま、自由に旅をしていた、
それだけのはずだった。

城の中はとても荒れている。
だがそれと同時に先ほどまで人が暮らしていたかのようにも見えた。
きっとそれは灯された無数の光源から漏れる温かさのせいなのだろうが…

ふと視界に一体の石像が映った。
それはエントランスの正面から二階へと続く階段の前に
そっと安置されていたのだ。
ラルフは訝しむ。はて、この様なモノがさっきまであっただろうか、と。
禍々しい爪を有する腕と巨大な爬虫類にも似た頭骨。
それでいて尖った口先であり、体は人の様な骨格を持つ。
また尾てい骨のあたりからは先端が槍の穂先の様な尾が伸びていた。
どうやらこの石像は古書に出てくる悪魔---ガーゴイルの骨の
模型であるのだということが、
あまり生物に詳しくないラルフにも判断できた。

今にも動き出しそうなこの石像の存在を不気味に思いつつも、
ラルフは自身の直感が赴くまま、二階へと向かおうとするのだった。
しかしその時、背後で「ガシャン」と何かが動く音がした!!

そう、それは石像の動く音である。
いや、よくよく見てみればこれは石像などではない。
本物のガーゴイルの骨だったのだ。
骨格を動かす為に必要な筋肉などがないにも関わらず、
その悪魔は台座から緩慢な動作で飛び降り、
骨のこすれる乾いた音を響かせながらラルフに向かって歩みを進める。
そしてその途中、右の腕で自らの尾を掴んだかと思うと
なんの躊躇もなくそれを手折った。

こいつは明確な敵意を持って向かってきている!!
そう感じとった次の瞬間には既にガーゴイルの槍が届く距離。
繰り出された刺突は反応の遅れたラルフの左腕を僅かにかすめた。
穂先は見た目以上に鋭いらしく、
かすめた左腕の皮がぱっくりと裂けている。
若干の血がにじんでいたが、それほど酷い怪我ではないようだ。

運よく一撃目がそれた内にラルフの方も臨戦態勢を整え終えていた。
剣と盾をそれぞれ構え、ガーゴイルの次の攻撃に備える。
ニ撃目。同じ様に槍を突き出すガーゴイル。
ラルフは盾を少しだけ斜めに構え直し、刺突を外側へとそらした。
しかしガーゴイルはそれた槍の軌道を無理矢理に変化させ、
刺突から薙ぎ払いによる斬撃へと切り替えてくる。

盾受けに成功し攻勢に転じようとしたラルフは咄嗟に盾で防いだ。
骨の見た目通りの軽い一撃である。
しかし槍の鋭さに関しては身をもって思い知った。侮れない。

攻撃が止んだ一瞬を見極めすかさずバックステップで距離を取り、
懐から取り出したナイフを投げつける。
それとほぼ同時に自身も大きく踏み出した。
思いがけず飛来するナイフをガーゴイルは槍で払い落とす。
生まれた隙を突いてラルフは一息にガーゴイルの左を駆け抜けた!!

脇を走り抜けるラルフを追う悪魔の視線。
再び槍を向けようとするが、なんと槍が、手が、腕がない!!
次の瞬間ガシャンという乾いた音とともに
槍を持ったままの右腕が床へと落ちた。
ラルフはすぐさま停止、反転し、横なぎの刃を放つ。
ガーゴイルの細い背骨と残った左腕は、
その一閃によって易々とたたき折られてしまった。

こうして崩れ落ちた悪魔の遺骸は、時間という波にさらわれるかの如く
瞬く間のうちに風化してしまったのだった……

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