私は現在58歳。定年を前にしたサラリーマンである。今後退職時に受け取る退職金、再雇用での収入の激減を前に、自分の老後の生活とお金の関係をどう考えていけば良いのか思いあぐねていた。そんな中、本書と出会い、考え方のヒントをもらった。お金の本と言えば、資産運用の仕方に関する本がほとんどで、資産を取り崩しながら、お金の面で安定した第二の人生を指南する「出口戦略」について書かれた本は、ほとんど出会ったことがなかった。本書は、今ある資産の寿命を伸ばす賢い「取り崩し」の技術を教えてくれる日本における革命本である。
まずに著者の野尻哲史氏に触れる。著者は1959年生まれ。一橋大学を卒業後、山一証券、メルリンチ証券、フィディリティ証券、投資教育研究所を経て、フィンウェル研究所を設立し、資産形成を終えた世代向けに資産の取り崩し、地方都市移住、勤労の継続に特化した啓蒙活動をスタート。政府の金融審議会の委員等を務め、定年後のお金について、多数の書籍を出版している。
それでは、まず本書の冒頭に書かれた内容を紹介する。
本書は、
序章『資産形成を終えた人に』
第一章『「資産活用」世代の実態』
第二章『リタイアメント・インカムとは?』
第三章『「毎月10万円の引き出し」はなぜキケンなのか』
第四章『引き出しは「率」で考える』
第五章『保有する資産全体のなかで取り崩しを考える』
第六章『資産活用層は新NISAをどう使う?』
第七章『生活スタイルと資産活用』
第八章『資産活用層の社会貢献』
で構成されている。
それでは、始めに、序章『資産形成を終えた人に』から。
本書籍レビューでは、筆者が「資産活用」に関して、具体的に、多くの説明を行っている、
第二章『リタイアメント・インカムとは?』
第四章『引き出しは「率」で考える』
第五章『保有する資産全体のなかで取り崩しを考える』
を中心に概要を紹介する。
まず、第二章『リタイアメント・インカムとは?』から。
つぎに第五章『保有する資産全体のなかで取り崩しを考える』について。
最後に、第四章『引き出しは「率」で考える』について。
以上が本書の概要である。
本書を通じた私の学びは、
〇退職後のお金に対する考え方は、
「生活費 = 勤労収入 + 年金収入 + 資産収入」
に変わる。
*これは「勤労収入 < 生活費」へと変わったことを示している。
〇それらを包括的に考えることを「資産活用」と呼ぶ。
その意味は、「生活費、勤労、年金、資産の取り崩しの4つを上手にコントロールしながら、今ある資産の寿命を延ばすこと」である。
〇退職後の資産を、有価証券の資産を「運用資産」、預金を「バッファー資産」として2つに分けて、引き出し方法を考えると資産の取り扱いが分かりやすくなる。
〇積立投信はできなけれど、投資の継続はできるというのが、退職後のお金との向き合い方で大事な側面。
〇リスク性資産比率は、「100 - 年齢」で計算するのが一般的な考え方。
〇退職後は、退職金の受給により、預金比率が一時的に大きくなるが、一度に有価証券を購入すのではなく、運用資産の取り崩しはできるだけ遅らせて、まずは預金からの取り崩しを優先するという考え方で、リスク性資産比率を徐々に高めていくのが、安全な方法。
〇有価証券の資産の取り崩しは、運用と引き出しのバランスをとることが大事。これには、運用目標も、引き出し金額も、同一の指標の率で考えると、バランスを取った資産活用がしやすい
(例えば、3%で運用して、残高の4%を引き出すとすれば、この「使いながら運用する」時代には、大まかに言って毎年1%ずつ資産が減っていくことがわかる。この2つの比率の差を"「資産活用収益率」= 収益率 - 引き出し率 "と考えるとわかりやすい。)
〇資産活用の最終ゴールを決めて、逆算で資産準備を考えると、計画が立てやすい。
〇これから自分に大切なことは「資産を増やす」のではなく、「より満足度の高い生活を送るために、今ある資産を有効に使っていく」ということ。
〇働くという事に関しては、収入は少なくてもいいので長く、楽しく働けることがポイント。退職で、自分の向き合う相手が「会社」から「社会」へと変わる。役に立とうと思う相手が「会社」だった時代を終えて、何のために働くかの目的が変わってくる。
である。
退職後の資産、勤労収入、年金等は、個人各様。また、どんな生活スタイルを送り方をしたいかも、個人各様。それぞれ自分に合った資産活用を組み立てていく必要があると思われる。本書には、ここでは紹介しきれなかった資産活用の詳細案、ライフスタイルに合わせた資産活用の骨子の提案等が紹介されている。本書籍レビューを読み、資産活用に興味を持たれた方は、一読をお勧めする。