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ショートショート#6『テクノさん2』

 あのバーでテクノさんを見かけて2か月が経った今、僕は新宿西口のファーストフード店で昼食を取っていた。

「ねぇ、このデミグラスハンバーガー超美味しいんだけど!」
 隣のカップルの片割れの女がそういうのを、相手の男は「あぁ、良かったね。」とスマホをいじりながら返事をしている。

 僕はその隣の席で、腕時計をちらちら見ながら、バンズとパティそれからレタスしか入っていないハンバーガーを口に運んでいた。あと10分で、昼休憩が終わる。それまでに、このハンバーガーとドリンクを平らげなければならないのだ。

 ぱさぱさのパティの肉はやけに塩辛くて、最近胸やけがする。ここ10数年、郵便局員の僕の昼食はここのハンバーガー屋の1択だった。他を探すのも面倒くさいし、一番近場で、それでいて値段も手頃だったのだ。この際、味などどうでもよかった。腹にたまればどれも同じだ。とはいっても、昔は違った。
 数年前までは、期間限定商品が出てはその味を確かめていたし、できるだけおいしそうなものを、毎日バリエーションを変えて、こだわりを持ってその店で商品を注文していた。
 
 しかし、近頃は油物を食べると胸やけはするし、いくつかのメニューから選ぶこと自体が面倒になっていたので、できるだけ油味のない、バンズのパンと肉のパティとレタスだけ挟まれているハンバーガーを頼むことを決めていた。

 そうすることで、仕事で疲れている頭をわざわざメニュー選びで浪費する必要はないし、値段も安く済む。それにレタスも入っているので、栄養バランスもいいはずだ。
 ただ店を変えることはしなかった。新たな店を開拓する時間が惜しかった。貴重な昼休みを店選びで右往左往したくはなかったのだ。
 
最後のハンバーガーを口に帆織り込んだと同時に、彼女の会話を興味なさげに聞いていた相手の男が、窓を見下ろし、言った。
「やば、あいつ進化してんじゃね。」

                  続く

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