学生時代に書いた図書館見学記

ふと学生時代に参加した図書館見学のことを思い出した。

当時僕は工学部に属していながら文系学部への転学部を計画しており、そのときから図書館情報学の授業を受けていた(その後実際に英文学科に転学部した)。

図書館情報学のゼミのなかで、東京にある図書館を見学するツアーが実施されることを知り参加した。

ツアーのあとレポートを書いてほしいと頼まれて書いた。ゼミの先生にも面白いと褒められた覚えがある。それを『同志社大学 図書館学年報』第 32 号に載せてもらえた。

年報はスキャンして保存していたので、ここに改めて掲載してみることにした。

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<東京地区図書館見学記>
東京図書館見聞録〜日本の図書館の中枢を訪れて
工学部知識工学科 荒川 仁志

 2005年の夏に東京での図書館ツアーに参加した。見学したのは、福音館書店、TRC図書館流通センター、国立国会図書館国際子ども図書館、国立国会図書館、そして、足立区立中央図書館である。今回のツアーでは、普通知ることのできない図書館の舞台裏や、図書館文化を支える人たちの姿を垣間見ることが出来た。そこで見聞きしたさまざまなことを通じて、想像以上にその世界は深いものだと分かり、日本の図書館、活字文化を全貌を知るにはは一筋縄では行かないと、おぼろげながらも感じた。
 まずは児童書の出版社である福音館書店だ。お話を伺ってつくづく分かったのは、読書というものはは人の精神形成において重要な位置を占めるということだった。「売れる本」、「役に立つ本」ばかりに目が行ってしまいがちだけれども、精神文化といった「忘れてはいけないもの」を児童書づくりを通じで守ろうとする熱意には心を打たれるものがある。こういう思いを持つ出版社があるからこそ、日本の活字文化は確固とした「芯」があるのではないかと思い、安心した気分になった。
 TRC図書館流通センターは、この会社のおかげで僕らが図書館を快適に利用できているのではないかと思うほど、ここでやっていることは図書館のサービスに直結するものだ。特に僕が目を引いたのは、図書館で大変重要な書誌データベースを作成していることだった。日本で出版される本のほぼすべてがここに集まり、ここで書誌データをコンピュータへ入力し、図書館等へそのデータベースを提供している。見学したフロアで飛び交っている情報量は膨大なものであり、また若い社員も多く、ダイナミックに活躍するIT企業的なイメージがした。
 国立国会図書館国際子ども図書館は国立国会図書館の分館として、児童書を中心に集めてあるが、日本のものだけでなく世界中の本も集めてある。改築されて新しくなっているものの、古めかしい建物の愛囲気が僕は非常に気に入り、また世界の言語に興味がある僕にはいろいろな国の本を眺めるだけでもわくわくした。
 そして国立国会図書館は、日本の図書館の総本山的存在であるだけにこの図書館のどの部分をとっても他の図書館の群を抜いているため、そのインパクトは非常に大きかった。僕の一番のお気に入りは、地下の書庫だ。地下8階まである新館の書庫へ降りてみると、ずらりと並ぶ書棚に圧倒された。多少ひんやりとした地下であきれるほどの数の本に囲まれていると、ここはまるでジェームズ・ボンドの映画に出てくる秘密地下設備のような気がしてきて、僕は諜報部員になった気分で地下探検を楽しむことができた。
 最後は、足立区立中央図書館である。この図書館は一般マンションの下にあり、まさに東京ならではだ。清潔感のある館内は、書棚の間隔も十分に取ってあり広々としていて使い心地がよい。僕は国会図書館を除き、一般の図書館でここまで大きな図書館を見たのは初めてだった。午後8時まで開館しているため、自分の家の近所にほしい図書館だ。
 このツアーで学んだことは非常に充実したものだった。あまりの情報量の多さに僕はオーバーフロー状態だったため、勉強不足が身にしみた。質問し損ねたこともたくさんある。しかしそれはこれからの勉強に拍車をかけるよい機会だった。
 この感想レポートは僕のフィルターを通して見たことなので多少偏っているかもしれないし、あの体験をうまく言葉で表現も出来ないいら立ちも含めて申しわけない気がなくもない。しかし、この価値ある体験が、引率してくださった先生や施設等を案内してくださった方々のおかげであり、感謝の気持ちを忘れることはないだろう。


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