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忘れられないラブホテルの話をしようと思う。

20200529
彼は全くそんな気をみせなかった。

初めましての時からこの日まで、雰囲気あるバーでお酒を嗜み、おやすみと声をかけあう。
それだけの関係だった。手に触れたこともない。

二人は純粋だった。

彼は私にないものをたくさん持っていて、魅力的だった。別に性的に好きではなかったけど。

好きそうな美術展があったから誘った。一緒にコーヒーも飲んだ。中之島の川沿いを歩いて、他愛もない話をしたかもしれないし無言で歩いたのかもしれない。少しするとタバコの箱を出して目を合わせてきた。静かに頷いて彼の後を追う。私は煙と川をただ見つめてた。

中之島はビジネス街なのに時がゆっくり過ぎるから好きだった。

ちょっとした路地裏を通り、大阪駅を目指す。
もう一度言うが、手が触れ合うこともしてない。道の左手にそれがあることは認識していたけれど、存在するということ以外興味がなかった。

「休憩しない?」彼の口からそんな言葉が出てくるなんて思ってもみなかった私は、初めてかのように戸惑った。彼は私の手に触れた。
好きではなかったけど、ただただ彼に興味があった。静かに頷いて、彼の後を追った。

中之島にある「GALLERIA」と言うラブホテルは、一見古く見えるが、レトロという言葉が非常に似合う素敵な場所だった。

思い出したが、官能小説を描きたいわけじゃ無い。

ベッドの軋む音、何処から聴こえる女の喘ぎ声、虚無な天井、彼の吐息、壁に飾ってあるよく分からない絵。
全てがアンバランスでそれがなぜか心地よかった。

綺麗なものを求めていたわけではない。
醜くて、汚らわしい人間の欲望が好きなだけ。

彼とはそれ以降連絡をとらなかった。
男女になると終わる関係だったのだろう。

美化された思い出は、過去の過ちに過ぎない。


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