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漫画原作の実写映画を面白がってみた(どっちも愛してみせるぜ)

「大人」という別の生きもの 「ホットロード」に見る少女の大人像

原作漫画と映画を比べてみて、気になったのは「宏子」のシーンの少なさだった。
「宏子」は春山の所属する「ナイツ」の頭であるトオルの恋人であり、和希の憧れの存在だ。また、春山と同じタクティスの香水をしていて、以前恋愛関係にあったことを匂わせる存在でもある。
彼女は年上で憧れの存在であると同時に、恋のライバルでもあるという、少女漫画で主人公が成長するにあたって重要な存在を担っている(花より男子でいう藤堂静など)。

宏子の存在が省略された理由としては、和希・春山・宏子・トオルの四角関係を映画で描こうとするとおさまりきらない、ということが一つとして挙げられるだろう。

しかし、宏子に対する和希の視線にはこの「ホットロード」の軸となる感情が顕著にあらわれているように思う。

それは少女の成長過程における、大人に対する憧れと嫌悪 だ。

和希はこの作品のなかで、母親には期待を裏切られるような感情や、それに伴う嫌悪感、
対して宏子やトオル、また春山に対しては「こうなりたい」という強い憧れを抱いている。

映画では省略されていたが、宏子に憧れて薬品で髪の色を抜くシーンや、宏子とトオルの関係に、「いつか このひとたちと 同じくらいの位置で ものをみたい」(1.179)と憧れたり、春山が一人で生活しているのを見て「あたしもおまえみたいに生きれるような気がしただけ」(1.292)と急いて大人に近づこうとする姿が見られた。
しかしただの憧れだけでなく、トオルを失い弱った宏子や、春山の大人になることを拒否するような危うさも同時に描かれている。

子供であっても、大人であっても、誰にも頼らずに生きていける完璧な人間などいない。
そもそも和希が捉える「大人」は、極端に強く理想化されている。
しかしそれは皆が一度は経験することなのではないだろうか。
教師が出てくる少女漫画を分析した論文、「少女マンガに見る現代の教師像」には、

「生徒たちの教師に対する憧れは、一種の異世界に対する憧れに似たものとなる。生徒たちは無責任に教師の世界を美化し、比較的容易に外部の存在である教師に好意を持つことが出来る。」

とあるが、学校にも家庭にも居場所がないと感じている和希にとって、宏子たちは先生なのだ。
近くにいるママや学校の先生は自分のことを何も分かっていない、一緒に生活しているのにまるで自分とは違う生きものみたいだ。
そんな中、自分の知らなかった世界にいる宏子やトオル、春山たちと出会う。それからの和希は、ひたすらに母親から自立する(離れる)ことが「大人」になることだと捉えているように見える。宏子たちのいる憧れの異世界に近づくことで、大人になろうとしているようだ。

しかし、春山からの「しょーがねぇじゃん あいつら(和希の親)も生きてんだからさー」(2.325)という言葉や、春山との恋を通じて人を愛する気持ちを少しずつ理解し、ママが自分のことを大切に思ってくれていると感じられた出来事を通して、ママも自分と同じ人間なのだと気付く。
もちろん宏子たちが異世界に生き続けることは出来ない、同じ世界に生きる人間だということも。そうやって和希は大人への階段を上っていった。

この映画は原作どおりの大人への相反する感情と葛藤しながら大人に近づいていく和希の物語、というよりは、純粋な恋愛映画としてつくられているし、世間からもそう捉えられているようである。(「能年玲奈主演『ホットロード』、興収20億円突破し今年の恋愛映画No.1に」マイナビニュース2014/09/11の記事より。)
たとえば、「おまえ、俺の女にならない?」という春山が和希に伝えるシーンは、漫画だとバイクから降りずに腕だけで和希の体を静止させるのだが、映画だと肩に腕をまわして顔をのぞきこんでいる。
このシーンは映画の予告編でも使われており、レビューなどを見ても、「胸きゅんシーン」として扱われていることが分かる。
登場人物のエピソードを削って中途半端に伝わりにくい成長物語にするよりも、関係を整理し、理解しやすい恋愛映画に振った姿勢は興味深いと感じた。
あるいは恋愛という経験を通した和希の成長、という作品と捉えてもいいのかもしれない。
原作ファンからは「和希、春山の危うい感じが出てない」だとか、「春山やトオルが成熟しすぎている」などという声もあったようだが、それは彼らが子供と大人の中間の不安定なキャラクターというよりかは、恋愛環境において魅力的な人物であることの方が大事だと捉えられたからではないだろうか。
ただ個人的には、春山が別れた和希に「会いてーよ」と電話するシーン(2.231)や、事故の前に「愛してるって言っといて」と猫に伝えるシーン(2.328)など、多くの重要な「胸きゅんシーン」がカットされてしまったのはなぜなのか?と気になってしまった。

参考文献
紡木たく,「ホットロード」 集英社文庫(コミック版),2014.6.15 第28刷
山田浩之. "少女マンガに見る現代の教師像: 憧れの対象としての教師." 松山大学論集 12.3 (2000): 65-84.
「能年玲奈主演『ホットロード』、興収20億円突破し今年の恋愛映画No.1に」 マイナビニュース2014/09/11

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