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ベビーカーの横で泣いていた女性のはなし。

混雑する山手線。
あまり電車を使わないけれど、山手線に乗るとあらゆる思い出と紐付いて、つい回想してしまう。

そうだ。

暑い夏の日だ。
いつかの代々木駅。

熱風を感じながらホームから階段を降りるとき、ちょうど階段の最後の段を降りたばかりと思われるベビーカーが目に入る。

横に立って居る女性と、ベビーカーを挟んで対面して話しかける男性。

海外にルーツがあると見てわかるその男性は、身振り手振りで懸命に女性に話しているようだった。

男性は額に汗をかいている。

華奢な女性は、ぺこぺこと頭を下げていたので、ベビーカーを持ち上げて階段を降りてくれたことにお礼を言っているのだろうと思った。

階段を降りながら、ふたりの様子がより見えてくる。

聞こえてきたのは、日本語と英語の混ざりあった男性の話す声だ。

「大変じゃなくても、やってもらう。OK?」

そんな内容だった。
思わずゆっくり階段を降りながらも、しっかり聞いてしまう私。

男性は、早口で、ベビーカーを運ぶことを、あなたがひとりでやってはいけない。ものすごくがんばったらできるけど、それは違う。ベビーカーをみんなが運ぶ。その姿をたくさんの人が見る。あちこちで見る。だから、当たり前になる。

次の人のチャンスだよって。

それを聴いていた女性は、お礼を言いながら静かに泣いていた。

男性は赤ちゃんに挨拶をして、颯爽と改札のほうへ去っていく。

とても小さな声だったけれど、そのお母さんが「○○ちゃん、やさしいひとだったね。」と赤ちゃんに話しかけている声が聴こえた。

男性の言っていた、次の人のチャンス・・・

その言葉が今も心地よく引っかかっている。

他の人とも言えるのかな?
次の人って誰を指すのだろう?

これからこの国で赤ちゃんを産み育てる人たちのために、育てやすい社会にするための機会を私たちひとりひとりが持っている。赤ちゃんに対して社会がどうふるまうのか?私たちの姿勢はやがて文化になるから。

子どもたちが見ていたなら、大人になって手伝う人になるかもしれない。

大人が見ていたら、さらにサポートに加わるかもしれない。

そんなふうに動く人がたくさんいる社会で私も子どもを育てたい。

私は、必要を満たして颯爽と駆け抜けていった男性の言葉をそんなふうに翻訳している。


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