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やめておけば、よかった08

08 けじめとお別れと

「朝来たら、会社のフロアにばらまかれていてビックリしたよ。恐らく私以外にも複数の社員に見られたかもしれないね」

課長は面倒事はやめてくれと深いため息をついた。写真には援助交際とかショタコンなど無責任な煽り書きが添えられていた。

「君もいい歳なんだから、分かるだろ?今はちょっとお尻に手が触れただけで犯罪者になる時代だよ。それなのにこんな若い子に手を出して、親御さんが泣くぞ?」

「違うんです、これは…!私は彼を助けようとして」

「何から助けるんだ?こんな大きな子を。何だ、怪獣にでも襲われていたのかい?」

馬鹿にしたような口調で埒が明かない。結局、理由なんていらないんだ。要は会社の迷惑になる前に自主退職しろってことだ。

課長だけじゃない。他の社員の目も冷たい。軽蔑や差別って受けた本人じゃないと分からないツラさがあるんだって痛感した。味方がいない状況…この程度でもツラいんだから、レイくんはもっとツラかっただろう。

「佐藤、お前、どうしたんだよ」

心配して声をかけてくれたのは二宮だけ。いや違うかな。こんな状況にも関わらず、声をかけてくれて、いい人だね。

「会社、辞めなきゃいけなくなった。下手したら警察に捕まるかもしれないんだって」

「なんでそんなことに…」

「この張り紙のせい。あーぁ、善意を見せたらこれだよ。世の中って正直者が馬鹿を見るね」

無理やり作った笑顔。そうでもしないと涙が溢れる。そんな私に気付いたのか、二宮は給湯室に行って話を聞いてくれた。課長が茶化して聞いてくれなかったことも、全部。

「それじゃ、相談所の篠原さんが事情を知ってるんだな?」

「そうね、今日改めて受け入れの相談をするところだったし…」

すると二宮は私の腕を引っ張って、課長の所へ連れてきた。何をする気だと二宮を見ると、スマホを貸してと頼まれた。

「課長、佐藤はこの青年を保護してもらおうと相談所に連絡していたんです。佐藤の話しが信じられないなら、その人の話を聞いてあげてください」

突拍子のない提案に私も課長も度肝を抜かれた。確かに篠原先生の話なら信じてもらえるかもしれないけど…。

「佐藤、お前は間違ったことをしたんじゃないだろ?それなら証明しろ」

私ですら信じられなかった私を、二宮は信じてくれた。他の人は茶化して聞いてくれなかったのに…。人間って悲しいとか悔しい以外にも涙が出るんだ。けど今は泣いてる場合じゃない。


しばらくして、課長も納得してくれたみたいで、自主退職はしなくて済んだ。私一人だったら簡単に逃げただろうに。二宮には感謝してもしきれない。やっぱりコイツはいいオトコだよ。

「それにしても誰だよ…こんな陰湿なことをする奴…」

会社のフロアにばらまかれていていたってことは、ウチの社員か関係者。その点から思い当たる人物が一人いる。私はやっぱりケジメをつけなければならないようだ。

「やめておけば、よかったよね、やっぱ」

藤原、アンタなんだよね…これをばらまいたの。不倫とか…馬鹿な真似をしていたからバチが当たったんだ。

もう個人的な嫌がらせとか、そういう問題じゃない。私も藤原もケジメと謝罪をしないと…。


私は藤原の奥さんに電話をした。前に藤原が寝ている時に掛かってきた番号を控えていたんだ。もしかしたらバレた時に掛かってくるかもと登録していたけど、まさか私から掛ける羽目になるとは。

「すいません、私…佐藤と申します。ご主人と同じ会社の者なんですが」

知らない番号からだったからか、警戒するような声。けどしっかりと力強い、芯の強い。私が一番苦手なタイプ。お腹に子供がいるなら、ストレスを与えるのはいけないんだろうけど…。

「私、アナタのご主人と不倫してます」

どんな罪でも償います。だからもう終わらせて下さい…。

……To be continued

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