初恋の人

先日、初恋の人に会った。

今私は41歳で、その人は中学3年生の時に同じクラスだった人。つまり、その人を好きだったときの私は15歳で、26年ぶりの再会というわけです。

7,8年前にsnsで再会し、会いたいね~なんて言いながらあっという間に時間が過ぎてしまった。40を過ぎて、何だか本気で会いたいと思うようになって、連絡してみたらタイミングよく会うことができた。

2年前、結婚前によくデートしていた人が亡くなった。付き合いましょうねという約束はなかったのだけど、何度もデートを重ねて色んな話をした。結婚後も連絡は取り続けて、時々会ったりもしてたけど、私が子どもを産んでからは彼も遠慮をして、私は子育てで忙しく、時々チャットをする程度になっていた。それが、ある日突然亡くなった。知らなかったのだけど、彼はⅠ型の糖尿病を患っていて血糖コントロールをしていたらしい。彼のアカウントを使ってご家族から連絡があり、葬儀に駆け付けた。

1人で部屋で亡くなっていて、発見までに1か月ほどかかったようだった。検死はしたけど、真夏のことで腐敗がひどかったのでしょう、亡くなった日にちも特定できないということだった。私が名前を告げると、彼のお姉さんが「あ、手紙の」と言った。以前、私が旅行先から送ったポストカードが、大事に部屋に飾られていたらしい。それを聞いて、胸がぎゅ~っとなった。

多分、彼はあの時の私を好きでいてくれたのだと思う。私は別の人と結婚して、彼とは別の人生を歩んできたけど、それでもかつて気持ちの交流があった人の若い死は切ない。最後にチャットした時、彼のとった行動があまり誠実じゃなくて、偏屈だと感じた私は優しくない言葉をかけた。気持ちに寄り添うことができず、それが最後の言葉となったのが悔やまれる。

今更悔やんでも過ぎてしまったことは仕方がないのだけど、彼のことは私の中でとても大きなことだった。時間は流れてる。人は変わっていく。人は死んでしまう。自分も死んでしまう。当たり前すぎることだけど、この年になってようやく、真実味を持って実感するようになった。だから、会いたい人には積極的に会おうと思った。そしてどんな人にも、できるだけ想像力を持って相手のことを考えてみたいと。

初恋の人はとても忙しくて、昼夜反対の生活を送っていた。私がお母さんなので、あまり非常識な時間には誘えないと言い、仕事が休みの日に時間を作ってくれた。

26年ぶりの彼は、素敵な大人になってた。けど、私はよく知らない人なんだということが一番印象に残った。当然と言えば当然のことで、お付き合いしたわけでもなく、私が一方的に片思いをしていただけの人なのだ。私は高校生になってもその人のことを好きだ好きだと騒いでいたし、本当に好きなんだと思っていた。日々彼のことを考えぼーっとした時間を随分過ごしたと思う。別々の高校に行った私たちは会うわけでもなく、当然話しもしていないのに、だ。

私は奥手だった。恐らく誰かと向き合って恋愛をするには幼すぎ、かといって周囲の子達は皆恋愛中で、恋をしていないわけにいかないと思っていた。目の前にいない彼に恋をした気になって、勝手に想像を膨らませていたのだと思う。だから私が追いかけていたその人はどこにもいない。この日会った彼は私の想像とは全然別の人だった。彼とはお酒を飲みながら色んな話をして、お店を変えて終電までもう一杯飲んで帰った。思えばこんなに長い時間じっくりと彼と話したのは初めてなのだった。

でも、彼に会えたのはとても良かったと思う。仕事で成功している彼は、落ち着いた素敵な大人になっていた。同窓会等で沢山の同級生を見て感じるのだけど、その後の人生が良い方向にいっているかどうかが、その人の今の印象にかなり影響を与えるというか、残念だけどとても仲が良かった人や、とても素敵だった人でも、その後があまり上手くいっていないと、何となくそういう雰囲気の人になってしまう。私が好きだと思っていた人が、素敵な人生を歩んでいて、素敵な大人になっていてくれたのは私にとって幸せなことだと思う。

そして彼に会ったことで、私は15歳の自分に会えたんだと思う。子どもで、不安と不満がいっぱいで、でも一所懸命な思春期の自分。そんな自分に会うことができて、今の自分も見つめることができそうな気がする。彼に会って、こんなに晴れ晴れとした気持ちになるとは思っていなかった。これが、snsで再会してすぐ、30代の前半に会っていたら、彼も独身だったしまた少し違ったかもしれない。でも今は、お互い家庭があって、私は子どもがいて、彼は一通り遊びも通り過ぎて、要するにそこそこ幸せに生きてるオジサンとオバサン。この年で会えてよかったと思う。

私も彼も家庭があって大事に思っているし、そもそも私だけが彼に特別な思いを抱いていて、彼は単に久しぶりに同級生に会ったというだけだろう。だから、お互いが出席する同窓会でもない限り、もう会うことはないかもしれない。会いたいな、そうだね、って話してから会えない期間が長かったので、すっかり「いつか会う」を楽しみにしていたので、目的が無くなってしまったような、何だか少し寂しい気持ちもないわけじゃないんだけど、でもやっぱり会えてよかったな、と思う。