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バリ島の夏休み vol.12

一夜明け、窓の外を見ると実にシンガポールらしい景色だった。遠くにマリーナベイサンズ、目の前にはシンガポールを代表するホテル、ラッフルズが見える。あっちに泊まりたかったな…なんて罰当たりなことを考えつつ、そういえば朝ごはん付いてるって言ってたことを思いだし、いそいそと用意を始める。

シンガポールは2度目だった。乗り継ぎではもっと行ってるのだけど、ちゃんと街に出たのは2度目。1度目はもっと若い独身の頃、友人達と行ったのだ。その時はマレーシアからバスで向かい、シンガポールで合流する友人を迎えに空港まで行った。その時の空港は小さくて、もっと殺風景だった気がするのだけど、今や世界に誇るハブ空港。飽きずに乗り継ぎ時間を過ごせる工夫がいっぱいあるし、非常に広くて全て見るのは困難。

初めてシンガポールに行った時、友人を待っていたらタクシーの運転手さんが声をかけてきた。土地の人とは積極的に話す方なので、楽しくおしゃべりしていた。友人が到着して、じゃあ行くねって言うと、オジサンは自分の車に乗れと言う。嫌がる友人達を、まあタクシーだしどうせ乗るし、なんて促して乗せたのだけど、そのオジサンは「お腹空いてないか?」と言い、自分も食事をするからとホーカーズという屋台村に連れて行ってくれた。エビ等の魚介類を食べたが、出てきたものは全てとても美味しかった。そこにはオジサンの知り合いが(多分運転手仲間)いっぱいいて、何人かで一緒に食べた。この時のごはんはオジサンがおごってくれたし、食後はホテルまで送ってくれて代金は取らなかった。

今思うとぎょっとするような繁華街にある安宿に泊まって、部屋からは一晩中、男娼が客待ちをしている姿が見えた。暇そうにぶらぶらしている男娼たちを眺めながら、友人とボーイフレンドの話をした。当時の私は、マレーシアに住む中国人の男の子と恋愛中だったのだ。すでに吸殻を捨てたら罰金という時代だったけど、こういう猥雑な地域もあるし、歩きたばこしてる人もいるんだな、とこの時思った。

翌日はインド人街に行ってカレーを食べた。インド人たちはとても陽気で、ナンを窯に貼りつけるのをやらせてくれた。私は熱い窯に手を突っ込んだだけで悲鳴を上げ、インド人たちはナンの生地が無残にボトンと落ちて行くのを見て多いに笑い喜んだ。女性って若いだけでいっぱい得をするものなの。

楽しい思いしかしなかったから、シンガポールの印象はめちゃくちゃ良い。今思えば、こういうノリで海外で殺されてしまうようなこともあり、若くて軽率だったと思うのだけど、そこは治安の良いシンガポールで良かった。シンガポールだったら、日本と同じように、落とした財布も出てくるような気がする。

さて、いそいそと用意を始めたのは、シンガポールが美食の街だと知っているから。マレーシアと同じく中国人、インド人が多く、中華とインド料理が美味しくて、海に囲まれていて魚介が豊富。きっと美味しいご飯が食べられるはず。旦那とバリ腹でお腹を壊していた上の息子はパスすると言うので、眠い目をこすりながら下の子を連れ、両親とレストランに向かった。

案の定、朝から物凄いご馳走が並んでいた。朝粥や点心など、美味しそうな中華の他に、タンドリーチキンのようなインド料理もある。スタッフも中国人とインド人が半々くらい。スイーツも沢山あって、お腹がはちきれるくらい食べたという食いしん坊っぷり。
ふと見ると、パスすると言ってた旦那と息子もやってきた。やはり、シンガポールのごはんが気になったよう。家族そろって筋金入りの食いしん坊だわ。