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サブスクの話

「ギターソロ、スキップ聴取問題」と同じく、度々SNSで話題になる「サブスク問題」。

ああ、また話題になっているのかと見ていますが、サブスク問題は「サブスク是か否か」ではなくて、「サブスクでアーティストに還元される金額が小さすぎる問題」の一点なのだと思っています。

今回の発端となった川本真琴さんも、二発目のツイートにちゃんと書いていらっしゃいます。


ということで、生々しくない範囲で、現状置いておきます。

2020年にフィジカルのリリースで、2021年9月にサブスク配信開始したアルバムのタイトル曲「Vibrant」ですが、単曲の8月収益レポートです。

十分生々しいかも(笑)。
100円に満たない金額です。
プラットフォームごとの還元率も、ご覧頂ければと思います。Spotify…
最新のリリースではないですし、何も宣伝していない1曲でこんな感じです。


私はサブスクでは、リスナーとして本当に恩恵を受けており、未来にも必要なものだと思っています。
同時に、製作者としては「使いたいし使うべきだと思ってはいるけれど、元が取れないのでいつも悩んでいる」という状態です。

しかし、現状のシステムでやらざるを得ないし、恨み言を言っているのもあれなので、現状とっている対応策は以下の通りです。


1.自主制作する

レコード会社と一緒に音源制作すると、関わるスタッフの分だけ収益を出さないといけなくなります。幸いなことに、今までの制作の中で制作とプロモーションの方法はずっと見て学ばせてもらっていましたので、ある程度のことは自分でできるようになりました。
ですので、最初のコストカットとして、最近の作品は自主制作をしています。
ある意味気楽ではあるので、あまりネガティブに捉えないで頂きたい。


2.フィジカルのリリースを先行する

収益が出るのは、(1)CD直販、(2)CD店舗委託販売、(3)卸業者からの流通、(4)ダウンロード販売、(10)サブスク の順です。
(5)〜(9)がないですが、体感は本当にこういう感じです。

ということで、最近の3作は、まず(1)、3ヶ月後ぐらいに(3)と(4)、1年後に(10)にしています。
これから(3)を迎える『Hometown』は、そもそもライブ会場販売グッズ的なものなので、(10)はシングル曲1曲のみで、その他の曲も1年経過してもサブスクはしません。
なるべく(1)の期間に経費をカバーしたいとは思っています。

3.直販のCDに、ライナーノートや映像リンクを付属

『Live』、『Faces』、『Hometown』は、CD直販の場合にライナーノートを付けています。ライナーノートは、私自身がそれが楽しみでCDを買って聴いてきましたので、あるならぜひ読みたい。
アーティスト本人が書くライナーノートであるならば、ライターや評論家が絶対書けない、できるだけ主観的なものの方が読みたい。けれど、そんなものは初めてそのアーティストに出会うリスナーにとっては、どうでもいいものかもしれない。
と考えると、超主観的なものを書いて、すでに音楽を知って下さっている人向けに、または、これから積極的に知りたいと思っている人に向けて、限定的に付属した方が楽しいよね、と思って、最近そうしています。
CDショップでご購入頂いた方も、ライブ会場に来て頂く機会があれば、その時にライナーノートが欲しいとお声がけ頂ければ差し上げますので、ぜひお声がけ頂ければと思います。

『Calling』には、一般には非公開のPVの映像リンクを付属しました。


こんなところですかね。

ちなみに、ジャズでいいますと、インディーズでの製作費は大体こんな感じでしょうか。(人によって相当幅はありますが)

・録音費用(スタジオ、エンジニア人件費、ミックス、マスタリングまで) 20万円〜50万円

・ミュージシャン人件費 0円〜30万円

・パッケージ製作費(デザイナー人件費含む) 10万円〜30万円

・宣伝費 0円〜5万円

・諸々登録費用(JASRAC、ISRC、サブスク利用料など) 1万円〜10万円 

最近は、クラウドファンディングで資金集めをする形態も多くなりました。
私も『Faces』ではさせてもらいましたが、あれは何度もできる形態ではないです。借金して作ることと変わりないので、全て終わるまでの心労が半端なかったですし、ファンコミュニティの助けを借りすぎると、アーティストとして自立が難しくなる場合もあるかもしれません。(と、私は思っているだけですが。)

ということで、サブスクだけで回収は、どうあがいても無理です。
無理なものは無理。
だからサブスク同発にしないのですが、そうすると話題にのぼらない、シェアしてくれないので、リリースのインパクトは半減以下になります。
サブスクへの提供は、SNSと連動してプロモーションになる部分があり、雑誌媒体の力がなくなった今は、個人でできる大きなプロモーションになっているという側面もあります。

収益率がもっと高ければ、ジレンマは少しだけ解消できます。

ライナーノート文化とか、CD再生装置を持っていないとか、フィジカルの方が大切に聴くとか、そういう話は置いておいて、サブスクのアーティスト還元率が安すぎる、争点はその一点で、どうですかね。

ジャズの場合は、フィジカルの文化は絶対無くならないと思いますよ。
リスナーもアーティストもフィジカルが好きだから。
でもサブスクの利便性もちゃんとわかっているし、膨大な歴史的アーカイブにアクセスし放題なのは、何物にも変えがたい。

ポジティブに、うまく両立する方法を考えていけたらいいなと思います。


私のサブスクリストはこちらです。


私に限らず、応援するアーティストがいたら、CDを持っていても、PC作業中などにサブスクを回すことで、少し応援になったりします。


追記1

サブスク配信しているものも、実は自分の方針として、YouTube Musicには配信していません。
このプラットフォームに登録すると、YouTubeで無料で聴けてしまいます。
こういうジャケットの動画が出ているもの、「○○○-トピック」みたいなアーティスト名のものは、サブスク登録の際に自動登録されたもので、さすがにこの解放の仕方は少し違うかなと思っています。

ただし、利点が一つあって、「YouTubeコンテンツ収益化サービス」にも登録されており、YouTubeに他の形で使用された登録楽曲をAIで検出できるようになり、その分の使用料も入ることになります。
でも、サブスクでもない本当に無料のところに、コストをかけて制作した音源が載るのは本意ではないので、自分で登録する時は避けています。

追記2

ちなみに、私の生徒でも、若い人は本当にCD再生装置を持っていないことが多く、サブスクの検索速度が異様に早い。レッスンで「あのアーティストのなんちゃらっていうアルバム」と少し話したら、速攻で見つけている。20代以下の検索速度の速さは、ちょっと驚きます(笑)。

アーティストは、CDにせよ、レコードにせよ、サブスクにせよ、一人でも多くの人に自分の音楽を聴いて欲しいから、音源を発表しています。
だから、レコードだけ聴いているジャズファンにも聴いてもらいたいし、CDプレイヤーを持っていない若い人にも聴いてもらいたい。
とにかく、新しい出会いと可能性を信じて発表するので、どんな形であれ誰かの心に届きたいのは一緒です。

だから、私もCDとサブスク、どちらも発売日にリリースして上手く回るのなら、どちらも発売日にリリースしたいです。今はその条件が整っていないというだけです。

「サブスクは絶対使わない」という方がいるのは承知していますし、その方針はご自身でされたらいいかと思いますが、そうおっしゃる方はほとんどの場合、すでにCDもレコードも沢山聴き、沢山持っている方でしょう。
若い人はそうではないです。
一回回して何銭の利益みたいなサブスクでも、若い誰かor私の人生を変える出会いになる可能性があるので、その可能性は開いておきたいと思う。それも自然なことだと思います。
私も、YouTubeの無料配信もいまだに続けていることもそうですが、収益と関係なく価値を感じてやっていることもあるので、常に収益とのバランスをとりながら、活動しているところです。

ということで、私自身はレコードプレイヤーもあればCDプレイヤーもあるので両方買うし、サブスクも使うし、自分のために使えるものはなんでも使う方針です。気をつけているのは、〈ツールはあくまでもツール、使いこなすのは自分自身で、ツールに使われないこと〉、それぐらいです。

サブスクにネガティブな思いは全くなくて、これはこれで良いツールだから、安すぎる還元率だけもうちょっとなんとかしてよ、ということだけ、もう一度書いておきます。


追記3

ざっと見ていて参考になった良かった記事をピックアップ

最後、NFTの可能性になるところは、必然だと思います。
本来、違法ダウンロードの解決策はサブスクより先にNFTの技術があればよかったのかも、とも思っています。ダウンロード販売に価値を持たせることができたら、サブスクにしなくても良かったかもしれない。
先日、韓国のジャズフェスのウェブサイトを、行きたいな〜なんて思いながら眺めていましたら、チケットの他にNFT PASSなるものがありました。なるほどー!と思いました。日本でもどこか試しにやってみたらどうですかね?

「音楽にお金を出す余裕が、社会にあるかどうか」という話は、本当にきちんと考えるべきだと思います。
先日も自分の生徒と話していたのですが、レッスン生の中には医者と弁護士も複数いまして、市役所の生活保護担当で働いている人もいるんですよ。
彼らの話を聞いているとつくづく思いますが、私の仕事は、演奏もレッスンも、金銭的に余裕があり、心が豊かでいることができる人としか会わない仕事なんですよね。
医者、弁護士、市役所の生活保護担当など、彼らは現状困った状況にある人にばかり会っている。そんな彼らと雑談して、仕事の話などを聞いていると、「私はとてもスノッブなところに身を置いているのではないか」と、たまに自省的に考えてしまう。勿論私も収入がないと活動も生活もできないのですが、もうすでに持っている人、応援してくれる人の方ばかり向いて音楽するのでは、自分にとって、ひいては社会にとって、より良い未来ができない気もしているんです。そもそもジャズはお金持ちだけが楽しむ音楽じゃないと思うし。
うまく結論は出ませんし、サブスクと関係なさそうなのですが、サブスクを主に使う世代の社会的環境、経済的環境を考えると、サブスクはアクセスの可能性を広げるものとして、やっていかないといけないと思ってるんですよね。

また追記するかもです。

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