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やさしいって、強い。

「人の痛みがわかる、強い人になりなさい。」

物心ついた時から、これだけを口すっぱく言われて育った。学校の勉強よりもっと、もっと、大事なことがあると。

母がこの言葉を言う時の顔が好きだった。真剣で、やさしくて、少し遠くを見つめているような顔が。そしていつもこの言葉が続いた。

「いじめられている子がいたら、あんたから話しかけに行きなさい。必ずやで。」

テストで満点を取ったことより、不登校だったクラスの女の子の郵便ポストに毎週プリントを届けていたことを褒められていたっけ。

当時は、なんでその行為が褒められるのか、そんなに大事なのかもよくわからなかった。ただその女の子がみんなのいうような子には思えなかったから、あんまり意味も考えずにやっていた。


たぶん、私はずっと、よくわかってなかったみたい。この言葉たちの意味を。はっきりと。

最近、表面的じゃないやさしさにふれて、ようやくわかってきた気がする。

やさしさは、強さなんだと思う。やさしい人って、強い人なんだと思う。


それは、自分のアドバイスを伝えることでも、適当にうんうんって頷くことでもなくて。ただ、あなたを受け止めること。私と違ってても、それが私の好きなあなたではなかったとしても。とっさには受け入れられなかったとしても。ただ、存在を、選択を、言葉を、信じること。そして、あなたの幸せだけを願うこと。そこに私がいなかったとしても。


この世界をやさしさで満たすことはできない。戦争も偏見も差別もなくならない。そこには悲しさがある。

だから、ここには、すごく個別的な世界で私がもらった3つのやさしさを、ただ残しておこうと思う。記憶の断片的な記録として。世界へのささやかな抵抗として。


孤独でめんどくさい心にそっと入ってきてくれた、曲のやさしさ。

わかり合えないことに傷ついた日の夜、大好きで大切なバンドの新譜をダウンロードして、ある曲で号泣したっけ。無責任な明るさでも、突き放す暗さでもなかった。泣き疲れた後、光の毛布をかぶって眠ることができた。私だけに寄り添ってくれた。

暗闇の中でも眩しすぎないように
光の毛布をそっとかけるよ
ゆっくりでいい 起きておいで
僕はここで待っているから
Be Here / SHE'S


鎧をかぶって、戦うように生きていた私の発信を受け止めてくれた、友のやさしさ。

「私はあなたの誠実さだと、思ったよ」

私にあなたがいてくれてよかったと思った。あなたを大事にしたい、愛したいという思いが私を救った。彼女のやさしさをもらうといつも、私もあげたいと思ってしまう。そういう種類のやさしさをまっすぐくれる人だ。


そして、私に祈りを教えてくれた恩師のやさしさ。

「すべてはなるべくしてなるんや」

苦しかった時に救ってくれた恩師が最後に私にくれた言葉。私の意志も、苦しさを乗り越えようともがくことも、もらう言葉も、全部なるべくしてなっているんだよって。理屈の一切入らないその言葉は、感覚としてすっと私の心に染みこんだ。ご先祖様たちに見守られているような気がして、大きくて壮大なものを感じて。空の青さに圧倒されることや、無力さを感じることが私を穏やかな気持ちにさせた。祈るということを初めて身をもって学んだ。


書きながら思い出してまた泣いている。

やさしさの中にある強さは、私を私にさせる。

3つのやさしさは、違うのに同じで。1人なんだけど、相手とわかりあうその感覚は、どれも私の視界を滲ませた。どの瞬間も私のそばに相手はいなかったけれど、きっとそばにいたら私のピントはゆがんで目の前にいる相手の顔に合ってくれないだろうな。それぞれの困り顔が浮かぶ。


そして、もらったやさしさを振り返りながら、私が好きな人たちにあたえられるやさしさはなんだろうと考えてしまう。

なにも聞かずに、あなたの夜が明けるまでただそばにいること。光と闇、昼と夜、その間でたゆたうように生きてていいんだよと伝えること。

言うのはいつだって簡単だけど、それだけじゃない気がしている。

本当につらいなら、あなたを苦しめるすべてのものから、逃げてほしいと思う。世界も社会も私もあなたの前では無力なのだとしたら、私にできるのは見送ることだけだ。

私にはあなたの苦しみがわからないかもしれない。力になれないかもしれない。でも、あなたを信じたい。そばにいたい。好きな人には、笑っていてほしい。泣いてもいいから、絶望しないでほしい。あなたがされたいことを、したい。

やさしさをあたえることについての、私の大好きな歌詞。

包ませて 愛させて 
満たされたあなたがいいのに まやかし出来ないまま
いつの日か私にも その痛みを教えて
ゴーストライター / sumika


私のエゴとあなたの必要が重なる瞬間を、やさしさと呼びたい。


書いていて、ふと思う。

私は、「人の痛みがわかる、強い人間」になれているのかな。

たぶん、ずっとわからない。わからないままだけど、私は人にやさしくありたいと思う。

そういう種類の強さをもった人でありたいと、思う。

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