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「元カノカフェ」〜第2話〜「癒しのハーブティー」

・登場人物

松原アイコ             

代田サヤカ            

北沢シノブ            


◯オープニング

  「都内某所。元カノに扮した女性スタッフが、元カノとして接客をしてくれる、そんなカフェがあるらしい。ここは『元カノカフェ』。元カノへの淡い想いを疑似再会という形で体験できる、新しいエンタメカフェだ」

   テーブルを拭いていた代田、顔をあげる。

代田「いらっしゃ…来たんだ。久しぶり」 

 

◯「元カノカフェ」店内

北沢 「松原さん、次の研修メニューに移ります。次は、入店されたお客様をお席へご案内してもらいます。代田さん、見せてあげて」

代田 「はい」

北沢 「ではいきます。カランコロンカラ~ン」

代田 「いらっしゃ…来たんだ久しぶり」

北沢 「よく見て!」

松原 「え?」

北沢 「昔の恋人であろうと見つめる時には上目づかい!」

松原 「おお」

北沢 「ついつい触る袖や布巾、ここに恥じらいを演出!」

松原 「はあ」

北沢 「これが、元カノよ」

松原 「…!」

北沢 「次、席に案内してオーダーとって。代田さん」

代田 「はい」

   架空の元彼を案内する代田

代田 「席…ここでいい?コーヒー?…変わらないね。お砂糖とミルクは?…そう。昔とは違うのね」

松原 「…元カノだ」

北沢 「次、フード」

代田 「何か食べてきた?…そう、よかった。じゃあ何か頼みなよ。あたし作るから」

北沢 「松原さん、何か選んで」

松原 「えーと…じゃあこの「大好きだったオムライス」

代田 「!!…懐かしいね」

松原 「?」

代田 「半熟がいつも上手にできなくて笑ってたね。もう、失敗しないんだからね」

松原 「…すごい」

北沢 「ここまでで何か質問は?」

松原 「メニューに…ついてなんですけど」

北沢 「はい」

松原 「『あの日のナポリタン』って…」

代田 「冷蔵庫に具がなくてケチャップだけで作ったんだよね」

松原 「食べて欲しかったお弁当」…? 

代田 「せっかく早起きして作ったのに、急に仕事だからってドタキャンしたの、覚えてない?」

松原 「『二人で食べた雪見大福』」

代田 「半分こ?だーめ。もう、あの時とは違うんだぞ」

松原 「『渡せなかったチョコレート』」

代田 「バレンタインに会えないなんて寂しかった」

松原 「これらは誰の思い出なの!?」

北沢 「誰の思い出とかじゃないわ。そういう妄想を一緒に楽しむの」

松原 「なんでもありですね…ん?これなんです?『雨の日の』…」

北沢 「ああ…それね。いわゆる、『裏メニュー』ってやつよ」

松原 「裏メニュー…?」

北沢 「雨の日のココア」

代田 「これこそうちの店最大のメニュー…」

松原 「ただの…ココアじゃないんですか?」

代田 「…降らせます?」

北沢 「しょうがないわね」

    北沢カッパを着て出ていこうとする。止める松原

松原 「なに?雨?もしかして雨降らすんですか?」

北沢 「え?見なくていい?ちょうど下の店もまだ開いてないし」

松原 「口頭で説明して頂けたら大丈夫ですよ」

北沢 「あそう。良かった、水道代バカになんないんだよね」

代田 「大掛かりなんですよ。『もうお店には来ないで』って元カノがベランダに飛び出した瞬間、店長の降らす大雨がザアアア」

松原 「ええ?」

代田 「すごいですよ。元カノもお客さんもビショビショ」

松原 「お客さんも?」

代田 「ええ。もう泣き出しちゃうお客さんとかいるんです。『こんな大雨の中何やってんだ』とか言って。お互い半泣きで『ごめん』とか言っちゃって。で、仲直りして、毛布とココア出すんです。「これサービス」って。で、『勘違いしないでよね。風邪引かれても困るから』って言うんです。これが『雨の日のココア』」

北沢 「一杯二万円」

松原 「高い!」

北沢 「まあ、ざっとこんなもんかな。注文聞いたらそういう感じでやってもらいます。提供の時も元カノらしくやってもらうから。あとは読んでおいて」

松原 「はあ」

北沢 「じゃあさっそく練習してみましょうか。まずはお客さんの入店から」

松原 「はい、お願いします」

北沢 「カランコロンカラ~ン」

松原 「いらっしゃ…!」

北沢 「いいわよ!本物の元彼が来たと思って」

松原 「…本物……はぁ…はぁ…」

代田 「落ち着いて」

松原 「……た…た」

北沢 「松原さん?」

松原 「…たけちゃあああん!!」

代田 「どうしたんですか一体!」

松原 「すいません、多分本当の元彼がきたらこうなっちゃいます」

代田 「そんなことないでしょう」

松原 「すいません。元彼を思い出すとどうも…」

北沢 「うん。松原さんとりあえず落ち着いて。(座らせる)松原さん、もしかして恋愛にトラウマがあるんじゃないかしら」

松原 「え…」

代田 「よかったら話してもらえませんか」

松原 「でも」

北沢 「あなたが今までどんな男性を愛して、傷ついたのか、話してみて」

   カウンターに座っている松原。

松原 「…あれは去年のことです。雑誌記者の人だったんですけど、向こうから猛烈にアタックしてきて。仕事もできるし優しいし、いいかなと思って付き合ったんです」

代田 「はい」

松原 「でも週3以上会ってくれなくておかしいなと思ってたんです。それで彼の家に行った時、メイク落としや化粧水が置いてあって『もしかして私の他にあと何人かいるんじゃないの?』って冗談で聞いたんです。そしたら、『そうだね』って」

代田 「えええええ最低!」

北沢 「そんな男別れて正解よ」

松原 「ええ。すぐ別れました。でもそのあと自棄になって、どうでもいい男と付き合ったり…」

代田 「自分を大切にしてこれなかったんですね」

松原 「だからここ受けた理由も、本当はそんな自分を変えたくて」

北沢 「まだその恋を引きずっているから、わり切った接客もできないのね」

松原 「そうかもしれません。まだ彼のこと忘れられなくて…本当男ってずるいですよ」

代田 「そういう恋って一度は経験しますよね…。散々傷つけられたのに、忘れられない恋」

北沢 「燃える恋じゃなきゃ、火傷もできなかった…ってことね」

代田 「実は…私も昔、松原さんと同じようなことがあったんです」

松原 「ええ?」

代田 「私の場合は告白したその日に「週一しか会えないよ?」って言われました」

松原 「怪しい」

代田 「私も一緒です。他の女が彼の家に来てるのわかってたんで、わざと彼の家にピアスや化粧品置いて行ったりしてました。

松原 「わあ、一緒です一緒!」

代田 「結局仕事も何やってたんだか」

松原 「仕事も知らなかったの?」

代田 「はい。出版って言ってたかな?」

松原 「仕事も知らない…週1しか会ってくれない…それって」

北沢 「でも週一ならまだましよ…私はライターの人を好きになったことがあるんだけどね」

松原 「はい」

北沢 「ベットの中で「月1でもいい?」って言われたの」

代・松「えええ」

北沢 「ホテルでしか会わないから住所も知らないし、結局、名前すらも知らなかった」

松原 「もはやそれって」

北沢 「いいの。わかってたから。それでも好きだったのよ」

代田 「店長にもそんな過去があったんですね」

北沢 「今なら、最低な男だったってわかるんだけどね」

松原 「でも…たまに思い出しちゃうんです」

代田 「…匂いとか」

松原 「彼の吸ってたタバコの匂いを街でかいだりすると…」

代田 「ああ、タバコ…やばいですね」

北沢 「思い出すわあ」

三人 「マルボロの匂い」

松原 「…え?」

代田 「ええ?」

北沢 「やだ」

代田 「私たち、もしかしたら好きになるタイプの男性似てるのかもしれませんね」

松原 「ね。雑誌とか出版とかライターとか…」

北沢 「業種も似てるわよね」

松原 「いやいやでも…あたしそうとうのダメンズ好きですから」

代田 「あたしもです」

北沢 「あたしもそうだったわ。こないだの人も待ち合わせに一時間遅刻してきたり」

代田 「わかる!記念日なのにラーメン屋連れてったり」

松原 「わかる!友達に紹介するっていうと必ずお腹壊したり」

代・松「わかる!」

松原 「あんな最悪な男他にいないと思ってましたよ」

代田 「私も!まさかこんなに似てる人がいるなんて」

北沢 「世の中にはそういう男がいっぱいいるのよ」

松原 「でも…そんなとこばっかりのくせに、笑った顔が最高に可愛かったんです」

北沢 「わかる…」

代田 「あのつぶらな瞳…」

松原 「四角い眼鏡と」

北沢 「丸い顔」

三人 「…」

北沢 「そういう男が女をダメにするのよ」

松原 「…こんなに共感できる人たちがいるなんて」.

代田 「私たちもしかしてソウルメイト?」

北沢 「一緒に乗り越えましょう。大丈夫、あなたはいい女よ」

松原 「二人はどうしてそんなに強いんですか」

北沢 「私は仕事が充実してるからかな」

代田 「私も、新しい彼氏がすごくいい人なんで」

松原 「私も…お二人みたいになりたい」

北沢 「なれるわ」

代田 「もしその男とまた出逢ったとしても」

北沢 「まったく動じない。そんな女に」

松原 「…はい!」

    お店の電話が鳴る。

代田 「お電話ありがとうございます。元カノカフェ「memory」です。あ…着きました?」

北沢 「あら、もうそんな時間(片付け始める)」

松原 「どうしたんですか?」

北沢 「雑誌の取材が入ってるのよ」

    後ろで「エレベーター上がって3階です」と対応している代田。

松原 「取材の人にも元カノ対応ってするんですか?」

北沢 「そうね。誰に対してもまずは『いらっしゃい、久しぶり』よ」

松原 「はい!」

北沢 「うん。大丈夫そうね」

北沢、取材の人を確認しドアを開けに行こうとする

北沢 「…た…た」

松・代「…え?」

ドアの向こうを見て固まる三人。

三人 「たけちゃあああん!!!」 

―完。

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「元カノカフェ」〜第2話〜「癒しのハーブティー」
https://www.youtube.com/watch?v=8S3b0ykpXGA

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