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NEW CROWN(三省堂)中学3年 Lesson 5 I Have a Dream レッスンプラン

 私は、教科書に入っていないけれど、生徒の成長に必要と強く思われる題材や旬な話題を授業でシェアするようにしています。以前は教科書に載っていなかった(教科書によっては今も掲載されていない場合もありますが)、マララさんやオバマ大統領の演説をタイムリーに授業で音声とスクリプトで学習し、それに対する自分の考えを表現させたりしました。また、羽生弓弦さんが金メダルを受賞されたときのスピーチを読んだり、前日のワールドカップの英語の実況中継を動画と徹夜して文字おこししたプリントを使って、次の日の授業で鑑賞したりして、生徒の興味を引き出しました。このように、生徒の関心があることや生徒の興味を高めてから、内容重視の学習をすること、そして心で深く感じて自分の中で葛藤して、論理的に自分の意見をアウトプットさせることは、とても重要だと確信しています。

 1月中旬は、 Martin Luther King Jr. Day(アメリカの祝日でキング牧師の誕生日1月15日のあたりの1月の第三月曜日)にちなんで、キング牧師について動画や歌を使用して、理解を深めさまざまな立場の人の気持ちを味わい自分の生き方について考察する機会を持っています。このキング牧師について教科書では、三省堂 NEW CROWN English Series 3(中学3年)Lesson 5 で扱われています。Lesson 5 なので、3年生の2学期の始めに学習することになるかもしれません。

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 音声はこちらです↓

https://tbqr.sanseido-publ.co.jp/03nc3/05/all/index.html

 私の市では、違う出版社の教科書を使っているので、教科書本文としてキング牧師を取り上げることはありませんでした。授業時間数と学習内容の多さの関係から、教科書以外の投げ入れ教材は、1つにつき1時間しかとれません。ですが、教科書の本文として三省堂 NEW CROWN では出ていますので、理解を深めお互いの意見を伝え合う活動を十分できるのではないかと思います!ここでは、私だったらこう授業するかな?というプランを共有します。

【事前準備】 

①教材研究  ② 生徒の実態  ③ 生徒との関連性

  事前準備としては、まず教材研究。教師が、歴史的なことをさまざまな情報源から正確に中立的に知ることが大事だと思います。また、生徒がこのトピックについてどれぐらいの予備知識があるのかを社会科の先生などに聞いたり、今までの人権学習や道徳で学んできているかをリサーチしたりして、把握することも、必須の準備事項です。関連事項として、リンカーンについては、小学校社会科で学習経験があるかもしれません。そして、生徒の生活との接点・リンクは何かを考えること、←これを意外と事前にし忘れる先生が少なからずいらっしゃるような気がします。ここを考えないと、生徒の興味を引くことができず、それはすなわち学習意欲を高められず、そしてもちろん生徒の自分の考えを表現したいという気持ちが育たないことにつながります。表現したいと思わなければ、表現力を向上するのが難しいです。

 この単元のテーマは、半世紀以上前の他国で起きた人種差別に関する歴史です。友だちとの人間関係や進路に悩んだり、恋愛ドラマや韓国人アーティストに夢中になったりしている日本の15歳が、とても興味を持っている内容とは思えません。生徒と、ずいぶん前にアメリカで起きた(いやまだ続いている)人種差別とはどのような関係性があるのでしょうか?ニュースなどをよく見ている生徒は、白人警察官による黒人射殺の事件を聞いたことがあるかもしれません。また、「ヘイトスピーチ」という言葉を知っている生徒もいるかもしれません。でも、自分が人種差別される側になる可能性がゼロではない、ということを意識している生徒は少ないかもしれません。あくまで生徒にとって人種差別は他人事であって、「改めて差別は良くないと思った。」という表面的な感想で終わってしまうととても残念です。ぜひ、生徒との関連づけを探したいものです。
(センシティブな内容なので、生徒の中で色々なバックグラウンドを持つ子がいる場合は、必ず慎重に導入してください!!)

【単元の最初に】

 興味づけ - What you already know - 

 下の写真は、この Lesson 5 の最初のページです。1963年にリンカーン記念堂の前に集まった 20万人以上の人々の写真が大きく載っています。写真の下には、① Do you know the building in this picture?  ② Name a famous person in history.  What did she or he do? という質問が書かれています。

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 ①の質問に対しては、No, I don't. の生徒がいると思います。T : Can you guess what this building is?(じゃあ、何だと思う?)と付け加えると、いろいろと考えてくれて「なるほど~」と思うような答えを出してくれるかもしれませんね。また、T : What can you see in this picture? という定番の質問をします。すると生徒はすぐにpeopleだ!と気づき、たくさんの人がいるということを認識できます。そして私だったらこの後、「この人々は何のためにここに集まっているのか」を発問します。T : There are a lot of people here.  What are they doing?  Why are these people here? Are they big fans of BTS?  I think they are having fun with BTS's live concert.  What do you think?  Talk about it with your partner. で、ペアで話し合わせます。もちろん、英語でです。生徒は、I think that they are ~ing. という既習表現を使って意見を伝え合うでしょう。I agree with you. / I don't think so.  I think ~. とつなげていけるペアも出てくると思います。ここのポイントは、生徒にとって身近な話題(BTSなど)を使って、答え方の例を教師が提示している点です。そうすることで、「BTSのコンサートじゃないしー」と、教師の意見に反論して自分の意見を言いたくなり、ペアと話したい気持ちになります。このように、「話したい」という気持ちになってから、話し合わせると、「英語で何て言えばいいんだろう?」→「わからない。」→「間違えると恥ずかしい。」→「話したくない。」の方程式が崩れていくのが実感できます。たとえ生徒の英語の実力がこの活動をするレベルに達してなくても取り組んでくれて、「これ言いたいんだけど何て言えばいいんだろう、知りたい。」と、自律的な学習へと導くことが少しでもできるのではないかと思います。教師が、生徒が出したおもしろい意見をクラス全体で取り上げたり、言えない部分を補足してあげたりすると、生徒が自分を認めてもらえたと感じて意欲的に活動を継続してくれるでしょう。

【単元の中で】

本文理解  - What you want to know -
目的と深い理解

 最初のページの人たちが何をしているのか、それを知りたいために本文を読んでいきます。本文を読む目的ができてから読みます。「今日はP74の本文を読んで日本語訳しましょう。」で始めると、残念ながら居眠りする生徒が出てきてしまいます。本文理解には、①概要をとらえる②詳細を理解する③質問に答えるといった流れが主流になってきています。ここでは長くなってしまいますので、細かいことは書きませんが、リーディング指導法などで効果的な方法がたくさんありますので、ご参考になさるといいと思います。

 ここで注意したいのが、本文内容を生徒の心に響かせる、ということです。単語の意味、文法を理解して、とにかく書いていることを日本語で理解する、ということが英語学習の目的ではないと思います。この教科書では、「よりよい社会にするために何をしたらよいか考え、キング牧師のスピーチにならって宣言しよう。」という活動がこの単元の最後にあります。よりよい社会にするために何をしたらよいか考える、ということは大人でも簡単なことではありませんよね。そこで、どうやったら考えられるのか、考えたくなるのか、それは題材をどこまで生徒の気持ちに落とし込めるかだと思っています。それに役立つのが、オーセンティックな教材だと思います。私は絶対に、実際に1963年8月28日にワシントンで行われた大行進の映像を見せます。そしてその大行進のときに人々が歌った歌を皆で一緒に歌います。また、今現在も差別が完全には解決されていないこともシェアします。

 ♪ We shall overcome We shall overcome
    We shall overcome someday.
   Oh deep in my heart I do believe.
   We shall overcome someday.

   We'll walk hand in hand.
   We'll walk hand in hand.
   We'll walk hand in hand someday.
   Oh deep in my heart I do believe.
   We'll walk hand in hand someday. ♪

 また、学年団の先生方に協力してもらい、一日だけ学校内で使用できる場所を限定して、差別を受けられた方々の生活を経験をしてみるのも有りかもしれません。私自身、高校時代にそのような体験学習をしました。今でも心に残っています。

【単元の終わりに】

意見・考えのアウトプット - What I learned -

 前述したとおり、教科書にあるこの単元の最後の活動は「よりよい社会にするために何をしたらよいか考え、キング牧師のスピーチにならって宣言しよう。」です。「よりよい社会」とは具体的に「差別のない、よりよい社会」という意味でしょう。

 三省堂のTEN (Teaching English Now) 英語教師のための情報誌 (2020特別増刊号)で、新渡戸文化小中学校・高等学校の山本崇雄先生は、次のように述べています。

「キング牧師の力強いスピーチや行動には、現代社会を生き抜くヒントが詰まっている。例えば誰もが幸せに暮らせる世界を願い、非暴力で行動していく力は、変化の激しい今の時代にこそ必要だ。授業では、キング牧師の考えをSDGsなどの社会課題に結びつけ、どう行動するか考える活動を取り入れたい。」

SDGsと結びつけるあたりが、さすが山本先生って感じがします。

 教科書P77 STAGE 3 Think & Speak には、I have a dream that one day we will ~.に続けて自己表現するようになっています。日本語でも難しい問いかもしれませんが、心を動かされた生徒は、本文の表現も用いながらでも伝えようとしてくれるはずです。ただ、生徒が自分の意見がまとまっていないと感じとれるようであれば、次のような発問が役に立つでしょう。

Have you ever been discriminated?
How would you feel if you were born as black people?
Do you hate white people?

このような質問に答えることで、自分なりの考えをまとめてくれるのではないかと思います。そして考えが出せたらシェアリングです。クラスメートの意見を聞いたり、読んだりして、さらに考えを深めます。ALTの意見を聞くのもとても勉強になると思います。

 生徒から↓こんな意見↓が出ることが予想されます。

I do my best to judge others by the content of their character, not their race, religion, or political beliefs.

 もしかしたら表面的にしか内容が伝わってこないかもしれませんが、このような意見を読むと、生徒の心と頭の成長が見れて、がんばって授業をしてよかったなぁ、と思うことも事実です。

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 とても長文になってしまいました。1人でも多くの先生方子どもたちに、英語の楽しさ、人生の素晴らしさが届きますように!最後までお読みいただきありがとうございました!

Thank you so much for reading! I hope to see you again soon! Bye for now!

【英語の先生のためのひとことEnglish】

The function of education is to teach one to think intensively and to think critically. Intelligence plus character, that is the goal of true education.
教育の機能とは、集中的かつ批判的に考えるように教えることだ。
知性にプラス人格、それが真の教育の目標である。     
                     Martin Luther King, Jr.

 キング牧師も critical thinking の重要性を訴えていました。21世紀の4Csに影響を与えている1人ですね。



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