どうしようもない話
わたしたちの願いは一致していた。
わたしはその人の無事を毎日祈り、
その人はわたしの日常が平穏であることを祈り、
二人は世界が平和であることを祈った。
彼女は国連軍の兵士として中東の戦地にいた。
司令室での任務が基本だが、偵察任務に携わることも多く、
所属部隊の兵士が負傷することもあった。
戦場ではテロリズムが席捲し、多くの病院や学校が破壊された。
市民や子どもたちは悲惨な生活を送っていた。
何故こんな理不尽なことが続くのか。
わたしたちの怒りは尽きることがなかった。
その人は1日の任務を終えると母国にその報告を上げた。
18か月前まで彼女は母国で働いていたのだ。
悲惨な過去と軍での長年の生活は彼女を疲弊させた。
この生活に終止符を打ち、母国ではなく、
日本に永住することを望んでいた。
戦争を放棄した国だから。わたしはそう思った。
わたしたちは日本の食べ物、日本画、彼女が大切に育てていた犬、日本の住宅事情、寺院や神社について、
これからの夢について語り合った。
だが、それらは全て嘘だった。
ある目的のためにその人はわたしに近づいたのだ。
タブレットに残した画像は700枚近くに及んだ。
警察にそれらの画像を見てもらったが、
わたしの小さな望みは叶うはずもなかった。
こんな話をすっかり信じ、翻弄されたわたしは本当に愚かだ。
それでもわたしは、戦地の人々や子どもたちが無事であることを今日も祈る。
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