蒼空はるかの原作者のWikipediaがヤバい
栃木県宇都宮市のPRキャラクター「蒼空はるか」が公式か非公式かで原作者と市が揉めている、という件についてはネットニュースに任せるとして、この事件について個人的に興味を持って調べていたところ、原作者の篠原直人(=るりどん)さんのWikipediaのページが非常に興味深いことになっていることに気付きました。
(執筆時の8月27日の版より)
よく読んでみると、Wikipediaの特筆性には値しなさそうな大仰な「来歴」、自分で見てきたような細かな解説、賛美的な文体。なにか違和感があります。
Wikipediaには「変更履歴」という機能があり、そこを開けば、そのページが誰によって作成され、誰がどのように編集したいったかすべて分かるようになっています。気になった私は誰が書いたのか調べてみました。
篠原直人のWikipediaページは2020年1月19日に「Sakurashinohara」という人物によって作成されたことが分かりました。
え・・・「サクラ・シノハラ」?
なんと蒼空はるかの原作者と同性の方でした。はたしてのこのサクラ・シノハラたる人物は、篠原直人本人なのでしょうか? Wkipediaではページの中立性を保つため、自己宣伝や広告活動が禁止されています。そのため、中立性が危ぶまれる「自分自身の記事」を書く行為は、非推奨とされています。
禁止されているわけではないので違反行為ではないですが、著名な実績のある人物なら自ら書かなくても自ずとページが作成されるものです。もし自分で自分を書いてるのがバレてしまうと「無名のくせにWikipediaを宣伝目的のツールに使うふてえ野郎」というレッテルが貼られてるのは避けられません。
しかし幸いなことにサクラ・シノハラは、篠原直人ではなかったようです。Wikipediaには各編集者と議論が出来る会話ノートというページがあるのですが、案の定同様のことを他の編集者からツッコまれたサクラ・シノハラさんが以下のように釈明していました。
というわけで、サクラ・シノハラさんは篠原直人さんではなくたまたま名前が似てるだけの別人だったようです。
しかしこのサクラ・シノハラさん、調べてみると篠原直人さんへの愛が深すぎる非常にヤバい人であることが明らかになります。
ヤバさその①
サクラ・シノハラさんが初期に作成した篠原直人ページは、記事の出典に使われている「下野新聞」の掲載日が欠けていたため、無出典としてUnamuという別の編集者に取り消し訂正されてしまいます。
ですがサクラ・シノハラさん、要請にしたがい、新聞の年月日を追記して再投稿するのですが、その間の時間なんと一時間(未満)!
出典に使われた新聞は「2012年9月24日」「2015年8月14日」「2015年12月3日」でしたので、たった一時間で下野新聞の過去10年分の”篠原直人記事”を調べ上げてきたことになります。
めちゃくちゃヤベえファンじゃないですか。
芸能人でもない一文筆家の活動をここまで熱心に追いかけるサクラ・シノハラさんの熱意と情熱はいったいどこから来るのか。サクラ・シノハラさんの篠原愛はこれだけに留まりません。
ヤバさその②
Wikipediaでは、編集者(執筆者)が過去どのページでどのような編集を行ってきたか確認することが出来るのですが、サクラ・シノハラさんの投稿記録ページがこちらです。
ほぼ篠原直人しか書いてねえ…。
そもそも篠原直人さんのページを作るためにアカウントを作ったようなのですが、いちばん最初に篠原直人さんのページを立ち上げて以来、一年以上に渡って篠原直人さんのページを更新し続けています。
その偏執的なまでの愛がエスパー並みに発揮されてると思うのが、2020年8月5日の版からサクラ・シノハラさんによって追記されたこちらの記述。
とあります。
ダイアプレス出版の『日本海軍最強艦艇大図鑑』という本に、篠原さんのイラストが掲載されてるようです。確認してみると、たしかに篠原さんのイラストが採用されていました。
ただし、130pのうち見開き2pに一枚載っているだけでした。もちろん共著者という扱いにはならない掲載量なので、奥付にはクレジットはあっても、Amazonや国会図書館といったデータベースで名前が表記されるわけではありません。出版社のページにも表記はありませんでした。単著の著者略歴にもありません。
つまり、単純にインターネットで篠原直人を検索しても絶対に本書にたどり着くことはないのです。
いったいサクラ・シノハラさんはこのお仕事をどうやって知ったのでしょうか。
念のため、篠原さんの公式HP・FB・ツイッターを一通り調べてみましたが、御本人の告知も見当たりません。私が調べた限り、インターネットに篠原直人さんと本書を結びつける情報は本Wikipedia以外に存在しませんでした。
告知もなしにこれらのお仕事にたどり着くのはもはや奇跡かエスパーの所業に近い気がしますが、サクラ・シノハラさんは篠原さんではありませんので、これらを合理的に考えると、「ダイアプレス出版のすべてのミリタリー系出版物を網羅して購入しており、篠原さんのイラストがないか全ページを確認している」という人物が導き出されます。
めちゃくちゃヤベえファンです。
ヤバさその③
一応サクラ・シノハラさんはWikipediaで数少ないながらも他記事の編集も行っており、Wikipediaの拡充に貢献しています。篠原さんのHPが出典になっている脚注に、篠原直人のWikipediaのリンクを追記したり、やはり篠原さんのHPが出典になっている脚注を、最新のブログ名に表記を訂正したりなどを主に行っています。
篠原ページ以外でも篠原ファーストのようです。
サクラ・シノハラさんは篠原さんと同じく、旧軍に知見のある方のようで、軍人の方のページを数人編集されておられるのですが、みなさん篠原さんと関係が深い方なのが興味深い点です。
サクラ・シノハラさんが死没日を追記した加藤曻さんは、訃報を伝えた篠原さんのツイートによると以前からご面識があったようですし、同じく死没日を追記してる竹田五郎さんについては、篠原さんが何年にも渡ってインタビューを続けて書籍にまでまとめた人物です。
誠に失礼ながら、ご両人とも「とても著名」といえるほどの知名度ではないように思うのですが、誰にも先駆けて逝去した年月日を付け加えるあたり、これも篠原さんの影響が見て取れる気がします。
ところで興味深いのが、サクラ・シノハラさんが加藤曻さんの訃報伝えた時刻です。サクラ・シノハラさんが当該ページに編集を加えたのは「2020年7月30日 19時39分」なのですが、篠原さんが訃報を発表したのが同日の「19時52分」なのです(ちなみに、FB・HP・ツイッターでも同内容の投稿をしてるがほぼ同時刻)。なんと篠原さんとたった10分差(はやい)投稿なのでした。シンクロニシティです。
これらの情報を勘案すると、サクラ・シノハラさんとは「篠原直人さんを偏愛レベルで研究している熱烈なファンであり、そしていよいよ篠原さん御本人とシンクロまで果たし始めている」ことがわかります。ヤバさに磨きがかかりました。
ヤバさその④
極めつけに、サクラ・シノハラさんは一番最初の版で篠原直人さんの血液型まで書いてました。脅威ですよ、自分の血液型まで知ってる読者なんて。夏目漱石のWikipediaにだって血液型なんて書いてません。ここまで来るとミザリーなホラーじゃないでしょうか。
なぜサクラ・シノハラさんは篠原さんの血液型を知ってるのでしょうか。著者プロフィールにふつう血液型なんて書かないでしょうし、篠原さんがネットや書籍で血液型を公言してる様子も確認できませんでした。
もはや明らかこの人物は篠原直人さんの実生活に関係しています。
ここまで来ると、非常に恐ろしい想定をしなければなりません。
篠原直人さんの半生から活動内容まで逐一すべてを熟知していて、全SNSを監視してなければ書けないような緻密な活動報告(協力した番組が、何年何月何日の何時に放送したかまで書いてあるんですよ!)、さらにはネットでは調べようのない活動実績やプライベートまで把握している同性のこの執筆者の正体。
こうなったら答えは一つです。
そう、みなさんの頭の中に浮かんだたった一つの冴えた答え。
ウルトラめちゃくちゃヤベえファンです。
篠原直人さん逃げてください!!!
終わりに
さて、ヤベえファンが書いたヤベえ記事だったという話でしたが、ついでにその記事の有用性も考察してみたいと思います。
Wikipediaには「特筆性」という基準があって、百科事典に収める特筆性に値しない題材だと判断されれば、記事は削除されてしまいます。平易にいうと、一般人に毛の生えたヤツを載せる紙面はねえ、ってことです。
篠原直人さんのページを見てみますと、まず
『イラスト、デザイン業務の個人事務所『アトリエ空のカケラ』主催』
とあります。
単なる屋号ですから、これは特筆性には値しないでしょう。
次に『水戸歩兵第二聯隊ペリリュー島慰霊会理事、第二師団勇会有志会(戦友遺族会)代表代行。』とあります。
活動としては立派なことをされてるのだと思いますが、その会の独立ページすらない以上、その団体の「理事」や「代表代行」に特筆性がある価値とは言い難いです。
「第二師団勇会有志会」に関しては調べると篠原さん御本人のブログがまっさきにヒットする始末で、そもそも規模がどれほどのものなのか疑問があります。
(追記:第二師団勇会有志会について会員の当事者から顛末が語られた論文が執筆されていました。どうも「会長代表のデザイナーS氏」は招かれざる客であったことが伺えます。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjoha/14/0/14_9/_pdf/-char/ja )
『「蒼空はるかプロジェクト」の企画立案者』については、先刻の市の見解が正しければただの「同人活動」というわけですから、やはり特筆性は少ないと思われます。
来歴・著作については、巧妙に実績が盛られているような印象を受けます。
『パラオ戦跡の調査・取材を10回以上実施している。篠原の調査により、パラオで不時着した零式艦上戦闘機の搭乗員の身元が割り出され、遺族にも伝えられた。』は確かな実績といえると思いますが、逆にこれ以外には特筆すべき点はみられません。
ただ調査を数回しただけでWikipediaに載るような一角の人物になるとは思えません。
『2016年、飛行第244戦隊歌(飛燕戦闘機隊々歌)の楽曲の再現が篠原の企画で実現した』とあります。「実現した」とありますが、なにか巨大なプロジェクトが動いていたのとかではなく、出典をみてみればなんのことない、篠原さんが自身のYoutubeチャンネルに勝手に投稿しているだけです。制作の過程が長々と書かれており、きっと労作だったのには違いないでしょうが、客観的にみれば個人が趣味でYoutubeに動画を投稿してるだけです。
『2018年に宇都宮プライド事業、宇都宮市産業PR愉快ロゴ「飛んで愉快だ宇都宮」が受理、同年には宇都宮市航空PRキャラクター『蒼空はるか』のコミックが発売された。』とありますが、これも出典を確認してみれば宇都宮市がやってる事業で「宇都宮市にキャッチコピーを送れば無料でそのロゴを作ってくれる」というサービスです。企業などが宇都宮市の宣伝をすることを期待したもので、現在1303団体のロゴがあるそうです。
「受理」つうか、本当にただの「受理」やないかい。
嘘はついてないけど限りなく景表法違反的な何かを感じます。
『同年には宇都宮市航空PRキャラクター『蒼空はるか』のコミックが発売された。』の部分ですが、これは篠原さんの「アトリエ空のカケラ」が出版している本なので、まあ平たくいえば同人誌・自費出版です。
結局この段は「2018年に宇都宮市のサービスでロゴを作ってもらって同人誌を発行しました」しか書いてありませんでした。一見するとなにか賞を取った作品が商業出版されたように読めますから、見事なレトリックです。いやトリックです。
『2020年10月、篠原のプロデュースで「 蒼空はるか with 空色パレット」の1stシングルCD「コンタクト!」が発売された。』ともありますが、まぁもう書かなくても分かるでしょう。空のカケラが出版しているCDです。プロデュースつうか、自分で刷ってるんだから同人出版みんなそうです。
少し本題とは逸れますが、『2019年9月にエフエム栃木のRADIO BERRY『愉快なラジオ』に原案の篠原直人、作画の佐藤ヤスとともに蒼空はるかも声の出演を果たした。』とあります。”公式・非公式”議論では、篠原さんがこのラジオに出演したことを根拠の一つとして「協力と承諾」があった、と主張されていました。
調べると確かに宇都宮プライドの一環として、市の提供で『愉快なラジオ』が運営されてるそうです。ですが、公式HP・FBを見たかぎり、「宇都宮市にゆかりのある団体や企業の人をゲストに招いて話を聞く」のがコンセプトのラジオのようで、そもそも毎週いろんな方がゲストに出演されています。
市がスポンサーしてるラジオに出演したということは、市がスポンサーしてるラジオに出演したというだけの事実に過ぎないのではないでしょうか。これを市からの「協力と承諾」とするのは個人的に少し筋が悪いように感じます。
ちなみに先月のラジオのゲストは小学生ハンドボールチームの代表だったそうです。これを”宇都宮市が協力している小学生ハンドボールチーム”と呼べば、やはりちょっと語弊を招くニュアンスではないでしょうか。
さて、「経歴」の方はこれで終わりですが、「著作・他」の方にも問題があることを指摘せざるを得ません。
書籍の方で記されている最初の3冊
ですが、この「姿川出版」というのが曲者です。国会図書館にも情報がなく、HPもありませんが、本と出版流通さんの「地方・小出版流通センター:新規取引出版社」というページにヒントがあります。地方の小出版流通センターと新規取引を開始した出版社の情報が載ってあるのですが、姿川出版の情報がそこにあります。
『電話028-305-2737』という点に注目です。ググります。あるページがヒットします。
なんと篠原さんの事務所「アトリエ空のカケラ」と同一番号なのでした。要するにこれらも「同人誌」だったわけです。
たしかに出版物をみても姿川出版は篠原関連の本しか出版していませんでした。
まぁ「同人誌」をなんと定義するかによりますが、少なくとも流通センターを通じて商業流通させているので、大規模なセルフ自主出版とはいえるかもしれません。菊池寛が文藝春秋で本出すみたいなもんか(?)
しかしながら、一般的に出版物というのは、出版社という第三者の承認があって社会的に「価値がある」と認められるものであって、単に同人誌や(実質)自費出版の本を出したからといって、Wikipediaに掲載するような「特筆性」になるわけではないのは明白です。何十冊も商業出版してるのに単独ページがない作家もたくさんいます。
プロフィールの『代表作』の半数が”同人誌”なのはWikipediaに掲載される作家として如何なものでしょうか。
ここまでの話をまとめると、篠原直人さんのWikipediaにおける明確な「特筆性」はダイアプレスで出版した単著3冊ということになります。残りのほとんどは個人の「同人活動」といってよいでしょう。
もちろん同人でも目覚しい活動をした人が単独ページを作られることはありますが、正直それほどの実績には思えません。
ページを執筆したサクラ・シノハラさんには申し訳ないのですが、篠原直人さんはWikipediaにおいて単独ページを作成するほど特筆性のある人物だとは思えない、というのが私見です。
本記事を書いていて思ったことは、サクラ・シノハラさんは「ない実績を盛るのが極めてうまいひと」ということ、篠原直人さんは「セルフ・プロデュースが極めて巧みなひと」という印象を受けました。
サクラ・シノハラさんの書いた文章は、一読するとその人物になにかすごい権威と実績がありそうに読めるのに、精読して、ソースを確認してみると、よくわからない団体の代表だったり、実態の怪しい出版社の本だったり、自治体との関係性を針小棒大に騒いでみせたり、フェアな書き方とはいえない文章でした。
篠原直人さんはよくよく活動内容を確認してみると、ほとんどが個人活動=同人活動でやられてるのに、それを「公式な仕事」とみせる演出が非常に巧みな印象を受けました。
「蒼空はるか」プロジェクトに関しても、自主制作の漫画からスタートし、キャラクターごとに声優まで割り当て、さらには新人声優を自身の事務所の所属にしてデビューまでさせています。
つまりPRキャラのために声優事務所まで作って歌を作ってCDまで発売してるのです。もはや事業か…?
どれも活動内容は個人が勝手にやってることとしかいえないのに、規模と行動力が高すぎて、なにかの事業の一環にしかみえないのです。それに加えて、駅にポスターを掲示したり、市のアンテナショップでグッズを販売してもらったり、ちょこちょこ行政と接点を持つので余計にそれらしくみえます。
バイタリティがすごすぎて、明らかに世間一般の「非公認マスコットキャラクター」のレベルを超えています。市が憂慮するのもむべなるかな。
結局のところ、この度の騒動は「本家と間違えられるレベルで気合の入った同人活動は迷惑」という同人マナーの話に要約できるのではないかなと思いました。
おわり
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