旅行でとらぶる(7)逆グルメ

本欄をお読みいただいていれば薄々おわかりと思いますが、私はまったく食にはうるさくありません

そこそこ満足いけば、あとは胃袋が満たされさえすれば、基本的に何を食ってもOK。おまけにその満足のハードルも低いので、どこで何を食おうと、それほど不満を抱くことはありません。

だから逆に、美味いものを探して歩くこともしないし、行列してまで有名店のメニューを食したいとも思いません。もちろん高額な料理も必要ではありません。なんと得な体質でしょう

そんなわけで、海外旅行に行っても、食うに困ったことはほとんど無し。

まあどこの国でも人はモノを食うので、選り好みさえしなければ、食い物に困ることはまず無いんですが。そもそも日本にいても、そう大したものは食ってないし。

ところが、そんな私でも、さすがにコレはちょっとと思った食い物、飲食店があります。そんな困った食事を、いくつかご披露しましょう。

世界のどこに行っても必ずあるのが、チャイニーズとイタリアンで、私の経験から言うと、この二つはたいてい外れナシ。覚えておくといいですよ、世界のどこの町でも、中華かパスタ(あるいはピザ)を食う分には、そう酷いものはないですから(保証はしませんが)

でも外れがないのは「たいてい」なのであります。

ロンドンのピカデリーサーカスからチャイナタウンにかかるあたりにあった一軒の中華レストランが、その一例。

ほかの店は混雑していたので、ちょうど開店時間直後だったと思しきその店に夫婦で入ってみました。映画を見ようと思っていて、その開映時間が迫っていたんですね。

店内は、いやに空いている、というかほかに客の姿なし。この時点で気づくべきだったのでしょう。

たしかチャーハンの類いと何か炒めものを頼んだ覚えがありますが、詳細は忘れました。

覚えているのは、味だけ。というか、味の無さ

おいおい調味料ってものを知らないのかい? そう言いたくなるほど薄味、というか無味。一口食べて、呆然としたもんです。おまけに、塩くらい振ろうかとテーブルに調味料を探したら、どこにも置いてないし。

やむなく黙々と食べましたよ。夫婦とも無言で。

そう、ふだんは食べながら色々としゃべくるウルサイ夫婦が、この時ばかりは無言でお食事をいただいたのです。これ、不味い料理に遭遇した時の特徴的な反応ですね。

面白かったのは、それまで客のいなかったその店に、われわれの後から続々と客が入ってきたこと。たぶん「東洋人が入ったんだから、あそこ美味いに違いない」と勝手にわれわれを品質保証と思ったんでしょうね。自分たちが食べ終わったところで、まだ食事中の彼ら彼女らの顔を見ると、一様に表情が凍りついていました。すみませんでしたねえ。

この数年前にニューヨークでも無味っぽい中華料理に遭遇したこともありましたが、それは極端に健康食志向の店だったせい。塩分脂肪分大カット(そうとは知らずに入ったわれわれが悪いんです) でも、このロンドンの無味中華料理は、はるかにそれを上回って、いや下回っていました。

いや、まいったまいった。

イギリスは料理が不味いとよく言いますが、これは俗説。じっさいには美味い店は美味いし、不味いところは不味い。当たり前のことですが、国単位でくくれるものではありません。

とはいえ、わりと不味い率が高いのも確か。

スコットランドのグラスゴーに行ったときにも、一件遭遇しました。

いささか日本食が恋しくなったので、スーパーマーケットで寿司を購入しました。

そう、日本食の代表選手としての寿司は世界でもけっこう浸透していて、あちこちで売っています。このスーパーは、日本でも名が知れている某百貨店の系列店だったので、安心感もありました。

これがまた見事な外れ

形態が日本の寿司とはいささか違い、妙におしゃれっぽいものだったのはともかくとして……

シャリはカツカツ、酢は効いておらず、ネタもパサつき気味。およそその味わいは、寿司とは認められないようなシロモノでした。ワサビも入ってなかったし。

ところが、そんな寿司もどきを喜んで食べたのは、わが息子。米飯LOVEなこいつは、そんな寿司でも歓迎だったらしく、いっこうに食が進まない親たちをヨソに、どんどんパクついていました。

ひょっとしたら、この息子、私以上に食に対するハードルが低いのかも。

そんな息子も絶句したのが、アメリカはデンバーの和風ヌードル店

この時も、そろそろ和食が恋しくなったので、繁華街の一等地に店を構える、ラーメン店っぽい広告を掲げた、カフェっぽい店構えのレストランに入りました。ロンドンの中華レストランとは違って、けっこう地元では人気らしく、そこそこ混んでいたし。

運ばれてきた、一見するとうまそうにも見えたそのヌードル。しかし、スープをすすってみて、唖然。

なんというか、超甘口

いや、そもそもラーメンスープとは、根本的に違う味なのです。ソバやウドンのだし汁とも違う味。

しばらくたって、ようやくその正体に気付きました。

そう、すき焼きのタレの味そのものなのです。それも、超甘口の。

店主か料理長が、すごく基本的な部分で勘違いをしているか、誰かに「日本食とはこういうものだ」と騙されたでもしたのか。

ほかの地元客たちは、楽しそうにこのラーメンとも思えないシロモノを賞味していましたが、彼らに「いやこれは根本的に違うんだ」と思わずレクチャーしたくなりました。日本の食文化が誤解されてるみたいで。

でも、よく見たら、店の内外にはラーメンともウドンともソバとも書いておらず、ただヌードルと記してあるだけでした。だから、すべては確信犯で、じつは高度にオリジナルな料理だったのかもしれませんがね。

親子3人、文句を言うわけにもいかず、この時もまた、黙々といただきましたとも。

ま、こうしたのも、旅の楽しみというか、思い出というか、少なくともこうして話のタネにはなりますよ、というお話でした。

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