さらば、××寺
NHKの教育テレビ(Eテレ)で毎朝やっている番組に、「0655」というのがあります。知ってますか?
タイトル通り、午前6時55分からの5分間に色々な要素が詰め込まれた、なかなか楽しい番組なんですが、その1コーナーが「おはようソング」 これまたバラエティに富んだいろいろな曲が次々と週替わりで披露され、知る人ぞ知るようなカルト的歌手やお笑い芸人から、思わぬ大物(デーモン閣下とかがいきなり出てきてビックリします)までが歌い手として登場し、趣向を凝らしたさまざまな歌を披露してくれます。
ここ数カ月、ここで登場しているのがムード歌謡。朝の7時前からムード歌謡ってのも何なんですが、なんと歌っているのは、ムード歌謡の帝王である、ロス・プリモス。いやぁ、さすがはNHK。
で、その歌が「さらば、高円寺」 JR中央線の高円寺駅の近くには、実際に高円寺という寺院があってビックリという内容の歌です。
そう、高円寺駅からほど近いところに、本当に高円寺(宿鳳山高円寺)というお寺があるのです。
私は70年代から80年代にかけて10年以上高円寺近辺に住んでいて、あのへんは地元だったので、高円寺があることは知っていましたが、自宅が駅の反対側だったこともあって、実際に訪ねたことはありませんでした。「さらば、高円寺」の画面で、30年余を経て初めて高円寺を目にしたわけです。感慨深いですねぇ。
さて、中央線沿線には、高円寺のほかに「寺」のつく駅が二つあります。わかりますか?
そう、吉祥寺駅と国分寺駅ですね(西国分寺駅は反則なのでナシ)
では、その駅の近くに、ほんとうにそういう名称のお寺があるんでしょうか?
国分寺駅近くには、ちゃんと国分寺があります。
歴史の授業で習ったはずですが、そもそも国分寺ってのは、全国に60寺以上あったものなんです。大化の改新のあと仏教による治世をめざした聖武天皇は、各律令国にひとつずつ国分寺と国分尼寺を作らせました。その国分寺の総本山が、大仏がある奈良の東大寺。
はい、国分寺にあったのはそのうち武蔵国に置かれた武蔵国分寺なのです(ちなみに武蔵国の首都である国府が置かれていたのが府中)
とはいえ、各国の国分寺の多くは廃寺となり、現存しているものはほんの一握り。その一つが武蔵国分寺なので、貴重品であります。
武蔵国分寺の創建は8世紀半ば。ただしその国分寺は、1333年に戦乱で焼失してしまい、1335年に現在の地に移されたとか。つまり現在の国分寺(山号は医王山)は再建されたもので、場所も移っているのです(どちらも国分寺市内ですが)
オリジナル国分寺があった場所は明治時代になって位置が特定され、昭和になって1956年から発掘が開始されました。この国分寺跡は、現在は国の史跡に指定されています。
では、吉祥寺のほうはというと、いくら地図を調べても、吉祥寺駅の周辺にそれらしき寺院はありません。
調べてみると、吉祥寺という寺院は、もともとは江戸の本郷元町にありました。その後いろいろあったらしいですが、明暦の大火(1657年)で、吉祥寺の門前町が焼失した際に、幕府は都市計画に基づいてその地を大名屋敷にし、住人たちを新たに開墾した武蔵野の地に移住させたのです。
その住人たちが、かつての門前町の名を残すべく、新天地に名付けたのが吉祥寺村だったというわけです。
そもそもの吉祥寺は、室町時代の1458年に太田道灌が創建したとか。山号は諏訪山。のちに徳川家康によって駿河台に移され、明暦の大火の後に、文京区駒込の現在地に移転したそうであります。
そんなわけで、吉祥寺の地名と寺院は生き別れの運命にあったわけで、そう思うとけっこうなドラマですな。
地名の由来というのは、調べて見ると色々とあって面白かったりするのですよね。駅名とその実態に齟齬がある例は他にもいろいろあり(高円寺と同じ時期にやはり私の最寄り駅だった西武新宿線の都立家政もそのひとつ)、ちょっと調べてみましょうかね。
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