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北の屋高校

水島新司の一連の高校野球マンガのなかでは、比較的マイナーな存在のものに「極道くん」がある。1984年から1986年にかけて約2年余、少年マガジンに連載された作品だ。

そもそも任侠ヤクザに憧れる高校球児というのもよくわからない設定だが、主人公である京極道太郎(あだ名はゴク)のキャラ造型(外見)が、ほかの水島高校野球マンガとひと味違っていたせいもあってか、それほどの人気は得られなかったと記憶する。時期的にも水島オールスター高校野球マンガである「大甲子園」と同時期に裏番組のように連載されていたし。

そんな気の毒な「極道くん」であるが、私は異彩を放つこのマンガ、けっこう好きだ。とくに、清正高校野球部でずっと補欠だったゴクが腐りもせずに頑張り、甲子園予選のいちばん大事なシーンでさっそうとマウンドに上がるあたりは、地味に感動したもんだ。

で、甲子園出場を射止めた清正高校が、他県のユニークな強豪校と対戦を重ねるという、「ドカベン」とどこが違うのか的な水島高校野球マンガの定石をくりひろげるわけだが、なかで非常に印象に残っているのが、甲子園の準々決勝あたりであたる「北の屋高校」だ。

対戦前に、北の屋高校の通称・義太夫選手のヒゲを剃るか剃らないかで高野連とひと揉めという一幕があって開戦となるのだが、この北の屋高校、校長でもある北の屋監督が、なかなかのクセ者で、ゴクがエースの清正高校を大いに苦しめる。

そこで展開される二重三重の奇襲作戦も面白かったが、数多い水島高校野球マンガのライバル校のなかでも、この北の屋高校が際立っているのは、ある大いなる特徴があったからだ。ではここで、その先発メンバーをご披露しよう。

 1 ファースト  義太夫

 2 サード    落京

 3 ショート   

 4 ピッチャー  青木

 5 キャッチャー 板前

 6 レフト    大阪

 7 セカンド   木戸

 8 センター   吉武

 9 ライト    古田

おわかりだろうか。これすべて、当時人気絶頂だった「たけし軍団」からのイタダキなのである。校長でかつ監督の北の屋サンのフルネームも、当然のように「北の屋 武」。

蛇足だろうが、打順に従って元ネタの芸人をあげておこう(推測です)。

グレート義太夫/2井手らっきょ/3ガダルカナル・タカ/4つまみ枝豆(本名が青木)/5ラッシャー板前/6大阪百万円/7キドカラー大道/8誰なんだ吉武/9古田古

人気も知名度も高かった「そのまんま東」や「ダンカン」「大森うたえもん」の名がないのは、彼らをもじった選手が、すでにゴクのチームメイトとして清正高校に在籍していたからに過ぎない。

なにせ当時は、テレビのチャンネルを回せば、必ず見られるほどの売れっ子だったビートたけし率いる軍団である。ずいぶんと大胆というか、ギリギリな設定である。

といっても、いくら水島センセイでも、そんな無茶なパクリはしない。タネを明かせば、水島新司とビートたけしはけっこう懇意であり、そういえば当時の人気番組「ビートたけしのスポーツ大将」などでも、よく水島センセイのチームと軍団との草野球対決がオンエアされていたものである。

ということで、たぶんキッチリ話はついていたのだろう。後年、マンガに登場させた実在のプロ野球選手の肖像権をめぐって連盟と揉めることになる水島センセイなんだが。

私がけっこうウケたのは、北の屋高校の二番手投手として登板してくる「御坊土山」投手だ。わかる? これは当時軍団の若手だった「おぼっちゃま」こと水島新太郎がモデルとなっているのだ。

水島新太郎は、いうまでもなく水島新司の実の息子。つまり、水島センセイは、わが子をマンガのキャラクターとして堂々と登場させたのだ。それもけっこうな美形として描いている。なんたる親バカか(笑)

たけし軍団はこのマンガの約2年後に例の事件を起こしたりしたが、その後は復帰し、現在でも多士済々のメンバーを並べている。国会議員まで輩出しているのだから大したもんなんだが、そんな軍団の全盛期の人気ぶりを証明する証拠として、この北の屋高校も記憶にとどめておきたいものだ。

ただ最大の疑問点なのは、この「たけし軍団」ならぬ北の屋高校が、なんでまた福井県代表なのかという点なのだが(笑)

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