ジャッキー・チェンと勝負する(26)

またまた古いほうに逆戻り。1977年の「成龍拳」です。香港でジャッキーの人気がブレイクした「スネーキー・モンキー」よりも前の作品ですが、日本公開はずっと遅れて1984年。

1979年の「ドランク・モンキー」公開を機に日本でも人気が出たジャッキー映画は、その後の新作と「ドランク・モンキー」以前の旧作の公開が同時期に進み、時系列的には相当混乱していました。現在進行形のジャッキーの姿の間に、数年前とはいえイメージのずいぶん違うジャッキーを見せられるんですから、当時は少々混乱していたものです。そうした旧作群の中でも、最後まで残されていたのが、この「成龍拳」。日本公開順で言うと「キャノンボール2」や「プロジェクトA」よりも後の公開です。

そんなこともあって、この「成龍拳」、公開当時はジャッキー映画としてはかなり異色に見えました。われわれの知るジャッキー・チェンが出来上がる前の姿なわけですから当然なんですが。

盗賊団に両親を殺された青年の復讐とその後の悲劇を描く時代劇で、ジャッキーはまるっきりの二枚目。作品にもユーモアのかけらもありません。日本公開が遅くなったのは、このへんの事情が理由なのでしょう。 日本で人気が出たばかりのジャッキー・チェンとまるで違うジャッキーを見せるのは、映画会社としてはちょっとためらわれるところだったでしょうから。

作品そのものは、武侠映画としてはかなりの大作。単純な復讐譚ではなく、裏切りの連続に翻弄される主人公の心理の揺れを描き、きちんとした作品に仕上げようとしているあたりは評価すべき。製作・監督のロー・ウェイにとっては勝負作だったのでしょうか。

だが、やはり70年代の香港映画としては、このへんが限度だったのか。ストーリーや設定に混乱があり、いささか興をそぎます。

主人公をはじめ、登場人物のキャラクターがぶれるので、感情移入がしにくいんですよね。ジャッキー演じる主人公の青年は、いきなり妊娠中の恋人に別れを告げたり、仇のはずの女と情を通じたり。復讐のためジャッキーの両親を殺し、ジャッキーをも殺そうとしていた仇の女も、途中で肝心の目的をすっかり忘れてしまうし。そのために、後からとってつけたように別の悪役が登場してジャッキーを狙う話にすり替わったりして、脚本大混乱。誰に同情していいのか、感情移入すべきなのか、シンプルなジャッキー映画に慣れたわれわれは映画を見ながら振り回されます。最後は無理やり大格闘戦でまとめ上げていますが、どうも見終わってもスッキリしませんね

まあ脚本が弱いのは、この時代の香港映画ではよくあることとはいえ、ちとひどいのではないかな、これは。

若く初々しいジャッキーのフレッシュな演技(ラブシーンあり)と、カンフーだけでなく剣戟(チャンバラ)のアクションも見られるのは収穫とはいえ、いまとなっては珍品の域を出ないと言わざるを得ませんね。

ただ、この「成龍拳」というタイトルは、なかなか秀逸。ひと目でジャッキー映画だとわかるんですからね。この時期、すでに「成龍=ジャッキー」という公式が世間的に通用していたという、当時のジャッキー人気の大きさのひとつの証拠ではあります。

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