未知のX

年末恒例の、新日本プロレス「ワールドタッグリーグ」の陣容が発表になった。

今年は、16チームが2ブロックに分かれて総当たりリーグ戦を行ない、各ブロックでトップのチームが優勝戦で激突する。いささか小ぶりになった全日本プロレスの老舗シリーズ「世界最強タッグ決定リーグ戦」にかわって、年末タッグの定番となりつつあるようだ。

出場チームを見て、あるものと予想していたプロレスリング・ノアからの参戦がないのは「あのニュース」と考え合わせると非常に示唆に富んでいるが、まあそうした舞台裏の話はおいておこう。

それでもメンバーを見ると、なかなかの壮観。この豪華さがタッグリーグ戦の醍醐味だね。

さて、そんななかでひときわ目を惹くのが、いまを時めく、インターコンチネンタル王者・内藤哲也のパートナー。

パートナーの名は「X」

いやべつにミスター・Xとかドクター・Xとかいう超懐かしの覆面レスラーではない(と思う。可能性はなくはないが)

これは要するに、現時点では発表せずに、サプライズにしてやろうという、いかにもプロレスっぽい「仕掛け」だ。

ぶっちゃけて言えば、プロレスの盛り上げ方としては、常套手段のひとつ。

たとえばビッグマッチのカード発表で、スターレスラーと対決する相手を、あえて事前には発表せずに、当日までお楽しみにするのだ。

すると観客の側には「Xって、いったい誰なんだろう?」という興味が湧き、客足が伸びるという仕組みだ。

まあ、そううまくいくとは限らないけど。

でもこの手法、それなりに話題づくりには役立つので、プロレス界ではほぼ定着している。

でも、なかには、もっと身も蓋もない事情で「X」が出現することもある。

ずいぶん昔になるが、1984年の全日本プロレス「世界最強タッグ決定リーグ戦」で、参加チームが事前発表された際に、そのなかに「X&XX」組があった。

だ、誰だ、これは?

当時はまだインターネットなんてものはなく、プロレス専門誌も月刊時代から週刊に変わったばかり。情報量も少ない時だけに、われわれファンにはまったく見当もつかなかったが、「相当の大物らしい」という期待感は高まった。

この時の謎のX組の正体は、蓋を開けてみれば、同時期に開催される新日本プロレスの「MSGタッグ・リーグ戦」に参加するはずだった、ブリティッシュ・ブルドックス(ダイナマイト・キッド&デイビーボーイ・スミス)

要するに、事前にライバル団体の人気レスラーを引き抜いた全日本プロレスが、新日本側の奪還を防止しようとギリギリまで隠し通すための「X」だった。開幕前に来日したブルドックスが、空港で「裏切り」を表明したので、けっこう大騒ぎになったものだ。全日本プロレスの作戦勝ちだった。

ただ、このコンビはテレビ局との契約が微妙だったらしく、せっかくここまで盛り上げたのに、テレビ中継では、いないことにされていたっけ。

そうした事情はともかく、話題の盛り上げとしてはなかなか上出来だったと思う。

同じくこの年の「最強タッグ」では、ジャイアント馬場のパートナーも伏せられていた。前年までタッグを組んでいたドリー・ファンク・ジュニアが、引退を撤回して復帰してきた実弟のテリー・ファンクと組んでしまったため、宙に浮いてしまった馬場が、秘かに用意した「大物レスラー」だというふれこみ。「X」ではなく、「ミステリアス・パートナー」とされていた。

こっちはなんとなくファンもその正体の予想がついていたが、開幕戦の入場式で「ミステリアス・パートナー」が姿を現わした時にはそれなりのインパクトがあった。正体は、元国際プロレスのエースだったラッシャー木村。馬場&木村組は、当時は夢のコンビだったので、相当のインパクトがあった(ただしリーグ戦中に木村が裏切って、このコンビはあっけなく空中分解した)

現在も、この手は数多く使われ続けている。

今年の2月22日にはノアの大会で、メインに出場する丸藤正道のタッグパートナーが「X」と発表されていた。出現したのは、新日本の矢野通。じつは矢野はこの当日に開催された東京マラソンを完走したばかりで、二重の意味でのサプライズとなった。その後、このコンビはノアのGHCタッグ王者にまでなっている。

この手を逆手に取ったのが「文科系プロレス」のDDT。

去年あたりまで、DDTの大会には毎回のように「X」が予告されていた。

その正体は、毎回同じで、K-DOJO所属の旭志織。失礼ながら、わざわざ「X」などともったいぶるほどの大物ではない。

「X」を期待して会場に来た客が、その正体は旭志織だと知ったら……まあメジャー団体の会場だったら暴動ものかもしれない。

しかし、そこは楽しみ上手のDDTユニバース。「X」こと旭志織が姿を見せた途端、観客がわざとらしくも大げさなサプライズ反応をして見せたのだ。おかげで会場は大盛り上がり。旭志織史上最大のヒットになってしまった。

そこでDDTでは以後ほぼ毎回、この「X」が予告され、いつも旭志織があらわれ、そのたびにみんながびっくりして見せるというのがお約束となった。しまいには、試合前の前説でMCが観客に「サプライズの練習」をさせるというのまでが定着し、試合前のカード紹介でも「第●試合 誰それ対「X」 なお「X」は旭志織です4」という、それじゃ「X」の意味ないぞというアナウンスが恒例になっていた。

そんなわけで、いささか使い古されてはいるが、それでもプロレスファンになじみのある手法を、あえてメジャー中のメジャーである新日本が使うのだから、今回の「X」の正体は相当の大物なのだろう。期待しちゃうぞ。

ネットでは早くも正体探しが始まっているようだが、私は本命として、旭志織をぜひ推したい(笑)

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